INTERVIEW

是澤 優インタビュー 途上国の経済発展を日本がサポートする意味

Atsushi Koresawa

是澤 優

国際連合人間居住計画(ハビタット)
アジア太平洋地域代表・福岡本部長

是澤優は、2017年6月より現職。国連ハビタットの以前は、1988年より国土交通省中部地方整備局総務部長、総務省消防庁国民保護防災部参事官、不動産適正取引推進機構研究理事 等、日本政府の様々な省庁の役職を歴任。また、国連ハビタット(ナイロビ)、OECD(パリ)、アジア防災センター(神戸)の国際機関等にも従事。これまでの経歴を通じて、日本と国際関係の両方において国家・地域・都市レベルの開発、土地・不動産管理、災害対策の分野で活動。

──是澤様はこれまで、日本の国土交通省・内閣府・総務省、国連、経済協力開発機構地域開発部(OECD)、アジア防災センター等で様々な経験をされています。現在の国際連合人間居住計画アジア太平洋代表(国連ハビタット福岡本部長)としての主な活動をお聞かせいただけますでしょうか?

活動範囲はアジア太平洋地域、国数では42か国を管轄しています。西はイランから始まり、イラン、アフガニスタン、パキスタン、それから南アジア、東南アジア、太平洋の島嶼国にまで及びます。このうち16か国に国・フィールド事務所を置いて1700人ほどの職員が幅広く事業に取り組んでいます。活動の現場の多くは開発途上国・新興国ですが、日本でも途上国との技術協力専門家会議、SDGs等のグローバルな課題への啓発・教育活動なども行っています。
事務所の一番大きな役割は、地域全体を管轄しつつ、各事業を実施している国事務所、相手国政府や地方自治体等を支援することです。
世界人口の60パーセントがアジア太平洋地域に住んでいます。世界で人口の大きさで1番、2番、4番、7番目の国がこの地域に集まっており、急激に都市化している地域です。急激な都市化により様々な社会・経済・環境課題が発生しており、その解決のため各国にある事務所が実施している事業を福岡から後方支援しています。

──42か国というのは相当な数ですよね

そうですね。福岡の事務所には、インターナショナルスタッフが7人、ローカルスタッフが10人ほど勤務しています。インターナショナルスタッフは、国ごとに担当が決まっていて、担当国政府とのやりとり、一年のうち数カ月は出張して現地で管理、指導、支援を行っています。
私自身も現場に行くことはありますが、私の役割としては主に国連や政府主催の会議等への出席、また、各国政府の大臣等の代表に挨拶や交渉するというのが仕事です。

──開発途上国の課題はある一方、そこにはチャンスがあると考えられると思います。開発途上国に対する期待や魅力をお聞かせください

「チャンス」としては、例えば日本は1960年代~80年代にかけて急速に経済・社会が成長し都市化しましたが、その中で様々な経験や教訓を得ました。そのような経験や教訓を現在都市化とそれのもたらす多くの課題に直面しているアジア地域や他地域の国々へ役立てていくことだと思います。
地域全体としての経験を共有する、あるいは他の国の発展を見ながらその国に取り入れていけることっていっぱいあると思うんですよね。ちょっと古い話になりますけれども、30年前に当時のマレーシアのマハティール首相が「ルックイースト」と言っていました。ルックイーストというのはマレーシアが発展するにあたって日本をモデルにという考え方でした。日本に続き韓国、東南アジアのシンガポール、中国など段階的に発展してきました。それぞれが相互に経験・技術を共有しながら発展していると思います。
経済・社会の発展と都市化は相互に補完し合っています。経済発展が進めば都市化しますし、都市化によって労働生産性が高まって経済発展が進みます。車の両輪のようなものですね。経済発展と都市化が急速に進行しているアジア太平洋地域、特に東南アジアでは非常にダイナミックに成長しています。世界を見ても、アラブ地域、例えばドバイなどは日本でもよく映像で見ますよね。アラブ地域は、オイルマネーをベースにしつつ急速に発展しています。また、今急速に発展しようとしているのがアフリカです。ダイナミックに経済社会が発展しており、人々の生活水準も向上し、貧困層を呼ばれる人々も急速に縮小しています。

「ただ最近は、開発途上国にどこがモデルか?と聞くと日本という声がどんどん減ってきていますね。開発途上国に行ってどこがモデルかといって良く聞こえてくるのは、」

中国は経済と社会が全般的に発展していますが、特に我々が担当する都市整備という観点からは、沿岸地域の上海や深圳、広州などが顕著な例として挙げられます。深圳はもともと小さな漁村だったのが30年から40年の間に急速に大都市化しました。深圳のように見違えるように成長したという都市は各国にとってモデルとなっています。それ以外にも、シンガポール、韓国など非常に発展しており、その次がマレーシアなどです。そういった国々も、途上国からみるとモデルになります。以前アフガニスタンの大統領とお会いする機会がありました。モデルとして仰っていたのは、マレーシア、シンガポールでした。日本がモデルというのはひと昔前まではよく聞かれましたが、最近は少なくなってしまい残念です。今回新型コロナウイルスの件でも、世界で成功事例だといわれているのは、韓国、台湾、シンガポールなどです。韓国はコロナ対策を成功例として各国に積極的に展開しており、日本のコロナ対策が成功例として紹介されてる機会は少ないのが現状です。

「アジアの各国、さらにはアジアを超えてアフリカなどの開発途上国に日本の良い事例をお伝えしていくということが、我々としての仕事」

我々は、すでにどこかの国で実践されたソリューションを他の国に適用していくことなどの取り組みを行っていますが、日本に地域事務所があるという立場を活かし、日本にある優れたソリューションを見つけ出し、それを海外に展開していくことが必要だと思います。

──日本はトイレが綺麗、そういうところが日本はすごいなと感じました

日本のトイレが綺麗なことはもともと有名ですし、ウォシュレットなどトイレに関する技術について誇れるものがあると思います。
日本は貧富の格差が少ないという面も重要だと思いますね。途上国では金持ちが使う施設や建物は世界の最先端ですが、一般市民にまで行き渡っていません。アジアの大都市、例えばバンコク、ジャカルタなどのショッピングセンターには沢山のブランドショップが並んでいて、日本の高級車が駐車場に列を作っている光景をよく見ます。そんな近代的なビルの裏には、インフォーマル・セトルメント、スラムと呼ばれる、都市の低所得者の人々が密集して暮らす地区も多く残っていおり、格差は広がっています。日本は平等な社会と言われていますが社会全体のシステムの良い面だと思います。企業が持つ個別の優れた技術も重要ですし、それを上手に適合するための環境、システムが伴っています。

日本の伝統がこれからの発展の要

中国ではひとつ一つの都市の発展に加えて、都市を結ぶ高速鉄道も急速に発展しています。日本の新幹線みたいなものが全国に張り巡らされていています。中国の鉄道は危ない、「安かろう悪かろう」と言われることもありますが、実際に乗ってみると、必ずしもそういうことはないですね。駅も近代的な設備が多く見られます。
AIの最先端の大学は中国ですし、ドローン技術や電気自動車などもかなり進んでいます。ICTの分野でもファーウェイなど日本と競争し、一部は日本を追い越していると思います。そのように最先端分野で競争していくことも重要ですが、日本の伝統も重要です。伝統という意味は必ずしも「古い」ものという意味ではなく、社会が培ってきたもの、システムや価値観などにも日本の良さがあると思います。それらを含めてパッケージして売っていかないといけません。技術だけで売っていって、どっちが最先端かどっちが安いとかいうことだけでは勝負できないようになっています。トイレの話の他によく話題になるのが日本の都市は綺麗だということですね。ごみが街中にも散らばっていないし、駅や空港もものすごく綺麗だという声を聞きます。アジアの国々の街も随分と綺麗になりましたが、日本の細かい所まで目が行き届くという点と比べるとまだ不足しているところも見られます。そのような日本の伝統の見せる化が必要だと思いますね。

──日本人が持っている「ごみは捨てる」のマインドが大きいですよね。

そうですね。マインドを教育しようと思ってもなかなか難しいので、精神的な部分と技術的な部分がうまく結合すると良いかなと思います。器だけを作るのではなく中身も一緒に充填してパッケージ化する、パッケージ化して海外に展開するということが必要かもしれないですね。その典型例が「まちづくり」だと思います。

インタビュー/構成 Yu Kondo

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