パドマ・サンダール・ジョシ
Padma Sunder Joshi
国連ハビタット ネパール事務所長。
トリブバン大学工学研究院(都市計画および都市環境分野が専門)准教授を経て、2010年より現職。
1997年から2002年にはカトマンズ市長アドバイザー、カトマンズ首都圏計画審議会の委員も務める。
「サステナブルな形で野菜を作れるようにしたい」
『都市農業』とは家庭菜園など、農業従事者ではなく都市生活者が営む小規模な農業のこと。国連ハビタットのネパール事務所長に、特に首都カトマンズにおける『都市農業』の取り組みについて聞いた。都市生活者のクオリティ・オブ・ライフを向上させるとともに、食糧の質についての理解を高め、サステナブルな暮らしの実現に寄与したいとパドマは考えている。
──私も東京の自宅でベランダ菜園をやっていました。こういったことをネパールの人たちにどう普及させていきますか?
食料の質という意味では、特に野菜が問題となります。カトマンズに入って来る野菜の多くはインドから輸入されていますが、殺虫剤や化学薬品が多く使われていることが分かってきました。一部の業者にコントロールされていて値段がとても高く、また何百キロもの遠いところから野菜が運ばれてくるので、二酸化炭素の排出量が多くて環境に負荷を与えてもいますが、それはさておき人々が自分たちの菜園で野菜を作ることになれば、美味しいもの、新鮮なもののありがたさが分かりますよね。
──私も東京の自宅でベランダ菜園をやっていました。こういったことをネパールの人たちにどう普及させていきますか?
問題は物理的に家が小さいので農作物を作る場所があまりないこと、また農業をやる知識がないことです。ただ、小さな場所でも都市農業はできます。みんな興味は持っていますし、また今カトマンズやその周辺に住んでいる人たちの多くは、もともと農業をやっていて移り住んで来た人が多いのです。昔は農家だった人たち、自分の親の代は農家だった人たちが、その記憶を持っていたりします。みんな進んでやってみようという姿勢があるので、導入しやすいんじゃないかと思っています。
また、この新型コロナウイルスの感染拡大により、カトマンズではロックダウン(都市封鎖)でみんな外出禁止になりました。そうなると家で過ごす時間が増え、かなりの人が自己流で家庭菜園や屋上菜園をやるようになっています。今はちょっとしたブームとも言える状況ですので、良い機会だと思います。
必要なのはトレーニングです。みんな関心は持っていても、やり方をちゃんと分かっているわけではありません。農作物を作って実らせ、収穫するにはある程度のトレーニングが必要です。種のまき方とタイミング、育て方などは作物によって違います。そういう知識を普及させていきたいです。
都市農業の多くは趣味の範囲で、真剣に取り組むというよりは余暇の楽しみとしてやる人が多いです。国連ハビタットでは2013年に都市農業を含めた小さなプロジェクトをやったことがあります。農作物を作付けするための技術指導をして、育てていく上で問題があったり虫が湧いたりした場合にも職員がアフターケアをしました。その時やったコミュニティでは今でも都市農業を続けている人がたくさんいます。コロナの感染拡大を機に自己流で始めた人もいますし、自分たちで団体を作って頑張っている人もいます。そこに適切な指導を入れることで、都市農業の流れを大きくしていきたいですね。
──そういった取り組みを続けた結果、こうなってほしいという未来はどのようなものですか。
米や小麦を作るのは面積的に難しいので、都市部の土地を有効活用して野菜を作れるようになるといいですね。野菜やスパイスはネパール料理に欠かせないもので、日々の料理に必須です。例えばニンニクとか生姜とか、そういうものを自分たちで作って自分たちで消費するようになってほしいです。
また質の良い野菜を作る、サステナブルな形で野菜を作れるようにしたいと思います。例えば安全な有機肥料であったり、生ごみを堆肥にして再利用するとか、雨水を有効活用したり、自然環境に配慮した形で循環する都市農業の姿を作っていきたいと思います。一つの地区でそういうモデルができれば、それを他の地域に展開していけると思っています。
インタビュー/構成 Kenichiro Suzuki