task 課題

2009年の内戦終結から急速な発展を遂げつつあるスリランカ、高まる利便性とともに『交通の摩擦』も(前編)

交通インフラの整備が進む「異文化の交差点」

スリランカ民主社会主義共和国は1948年にセイロンとしてイギリスから独立し、1970年代に共和国制に移行して国名もスリランカへと変更した。その後、1980年頃から内戦が本格化。スリランカ北部と東部の独立を求めたタミル人少数民族による反政府組織タミル・イーラム解放の虎(LTTE)が勢力を増し、スリランカ政府軍と紛争状態になった。スリランカの内戦は2009年まで続き、30年近くの長期に渡って経済発展が遅れることとなった。
内戦終結後は急速な復興と経済発展を遂げているものの、それに伴い新たな問題も起きている。

ここで取り上げる交通事情で言えば、内戦中は都市と都市を繋ぐ鉄道や道路の整備及びメンテナンスは中断あるいは停滞し、特にコロンボから北部を結ぶルートは軍事的な制約により通行が容易ではなかった。内戦終結後も2014年頃までは北部までの道路にはチェックポイントが設けられ、事前に申請手続きをしないと通行できないなど自由な往来が困難な状況だった。

今では、コロンボから最北端のジャフナまで鉄道が運行を再開したことで往来は便利になり、もちろん『関所』も撤廃されている。観光で訪れるのも容易になったが、それは新たな文化的「摩擦」の原因にもなる。スリランカでは民族を問わず宗教や伝統的価値観に敬虔な人が多く、女性が肌を出す習慣はない。例を挙げれば、観光で訪れたタンクトップに短パン姿のツアー客に地元の人々が違和感を覚えることもある。良くも悪くも観光業がさらに盛んになるにつれこれから慣れていくのだろうが、この種の摩擦を回避するための配慮も忘れたくない。

鉄道や高速道路、そして地方空港が整備されると人の行き来は増え、様々な民族やコミュニティが交わる機会もさらに増える。タンクトップに短パン姿の観光客に限らず、様々な文化や価値観や慣習の違いが交差することになる。交通の整備が進むにつれて人々の暮らしは便利になり、経済発展にも寄与する。コロンボを中心とする都市と地方との格差も減っていくはずだが、その過程で「摩擦」がより大きくなる可能性もあるだろう。また2019年に起きた同時多発テロの影響もあり、内戦が終わって10年が経過しても、民族やコミュニティが調和して平和に共生しているとは言い難い。

また、現政権は親中派といわれ、多くのインフラ整備が中国の支援により行われている。日本との結び付きの歴史は長いが、日本のJICA(国際協力機構)により進められていたコロンボでのライトレール計画(LRT)の中断は 、日本でも大きな話題となった。中国の支援が増えるとともに中国からも人々が多く流入しているといわれ、同じ都市にさらに異なるコミュニティがモザイク状に暮らしている状況だ。

文化的な摩擦はストレスを生む。そのストレスが刺激となり、共生へ向けた話し合いの糸口となればよいが、新たな対立へと向かわないよう注意する必要がある。

一部写真提供:国連ハビタット
文章/構成 Kenichiro Suzuki