task 課題

2009年の内戦終結から急速な発展を遂げつつあるスリランカ、高まる利便性とともに『交通の摩擦』も(後編)

バスもトゥクトゥクも、女性が安心して使えない事情

スリランカには都市鉄道(都市とその周辺を結ぶ公共鉄道)がほとんど存在しない。首都コロンボからは、南のモラトゥワ、北のネゴンボへの路線くらいだろうか。鉄道は専ら都市と都市を結ぶ長距離に利用される。コロンボ市内でも、都市内での移動を担うのはバス、タクシー、トゥクトゥク(三輪車)だ。これらの「公共」交通が、増え続ける自家用車やバイクと競うように走る道路は渋滞も激しい。

市内交通のメインとなるのはバスだが、この運転手が給料制ではなく歩合制で働いている。だから彼らは、より多くの人を乗せてより早く移動することで、より多くの収入を確保しようと躍起になる。混雑も激しいし運転も乱暴で、4車線の道路を6車線分を専有し自動車とトゥクトゥクがひしめき合うのがスリランカの都市の日常であり、安心して使える交通手段にはほど遠い。 特に女性にとって安心して使える『日常の足』ではなく、常に混雑しているバスでは痴漢の被害も多い。またトゥクトゥクは便利な市民の足ではあるが、危険なイメージも付きまとう。1人で流しのトゥクトゥクを止める女性は多くはなく、乗る際には馴染みのドライバーを電話で呼び出したり、現在ではウーバーのように運転手の身元がわかるサービスを使ったりする。

スリランカは世界で初めての女性首相が誕生したことで有名な国であるが、女性の社会進出には欠かせない、女性が安心して使うことのできる都市交通が少ない状況をそのままにはできない。これを受けて、女性ドライバーを増やす動きがスタートしている。これまでタクシーやトゥクトゥクの運転手は女性の職業の選択肢に入っていなかったが、女性のドライバーが増えれば女性が安心して利用できるし、女性にとって新たな労働市場となる。

トゥクトゥクはタクシー用のセダンに比べて安価に購入でき、導入が比較的容易だ。トゥクトゥクを購入して、ドライバーになりたい女性に貸し出すことで、この活動を支援することができる。トゥクトゥクを買う余裕のない女性にもスモールビジネスの融資のスキームなどを活用してドライバーとしての仕事を始めてもらい、責任感を持って仕事をしてもらう。もちろんトゥクトゥクの免許取得を支援すると共に、安全な運転や道路利用につき講習も必要であろう。ゆくゆくは会社として女性がマネジメントできるようにする。こうやって持続可能なビジネスモデルを作り、運営していくうちに、市内の交通はより安全で便利になり、特に女性が安心して使えるものになっていくはずだ。 さらなる支援の形としては、エンジニアを派遣してトゥクトゥクのメンテナンスや修理を行ったり、また修理工を養成したりする事業が考えられる。現在でもJICAの青年海外協力隊の枠組みでエンジニアが派遣されていることもあり、その事業との連帯も有機的であろう。またスリランカでのバイクは日本メーカーのスズキ、ヤマハのものが多いので、企業協力の仕組みでエンジニアを定期的に派遣する、メンテナンス部品を提供する形も考えられよう。

『女性』という切り口でビジネスモデルができ、彼女たちを直接エンパワーするだけでなく、民族や宗教の異なる人たちがそこで継続して一緒に働くことにより、気付けば様々な壁を取り払って仲良くなっている、ということもあるだろう。スリランカではまだまだ女性の地位が高いとはいえず、これを変える一つのきっかけになるかもしれない。

文章/構成 Kenichiro Suzuki