task 課題

持続可能な支援の形を求めて、スリランカで『ソーシャルビジネス』を手掛ける石川直人

石川直人 Naohito Ishikawa

「対話・自立・持続」をテーマに、そこに暮らす人々の生き方を大切にしながら支援を行うNPO法人アプカスの創立者。スリランカでのNGO活動の範囲に留まらず、ソーシャルビジネス現地法人などを設立している。

援助漬けの構図を作らないために『ともに歩く』

私が青年海外協力隊の一員として初めてスリランカに来たのは2002年のことです。その時は大学を卒業して1年ぐらい、正直スリランカがどこにあるのかもよく分からないまま来ました。青年海外協力隊は2年間でしたが、その期間が終わる直前の2004年にスマトラ島沖地震があり、スリランカでは津波で大きな被害が出ました。まだ若かったですし、お世話になった国が大変な状況にある中で自分のできることはしたいと思い、ひとまず1年間はボランティアでもサポートしたいと残ることを決めました。
そこから日本のNGOに所属して復興支援にかかわっていたのですが、1年も経つと多くの団体は一区切りで帰って行くんです。その時もまだ若い思いが強すぎて、「なんで帰るんだ、現場はまだ問題だらけじゃないか」と残って、今度は現地のNGOと組んでサポートをし始めました。そんな動きを始めた時に大学時代からの友人たちが、「スリランカに残って活動するなら、日本でサポートできる体制を作るべきだ」とアドバイスしてくれて、NPO法人を作ることになりました。結局2年近くかかりましたが、NPO法人アプカスを立ち上げています。『アプカス』とはアイヌの言葉で「歩く」という意味です。私は大学時代を北海道で過ごし、一緒にやろうと言ってくれた友人が函館の出身だったので、先人アイヌから言葉を借りました。テーマは『ともに歩く』です。
当時のスリランカはまだ内戦をやっていて、北東部から避難してきた方々のサポートがあったり、また自然災害に対する復興支援など大掛かりな緊急支援という枠は、大掛かりでお金もかかります。我々にはその資金力も機動力もないので、そこは他に任せて、じっくり腰を据えて取り組もうと決めました。スリランカは災害が非常に多い国で、津波に洪水、地滑り、干ばつ、そして内戦がありました。目の前に問題があるので立ち止まって考える時間もなかったのですが、何年か取り組む中でこれまでを振り返り、今後どうしていこうかと考えた中で、我々と支援を必要とする方々の間に立場の上下ができてしまうことが問題だと考えました。
我々の立場が上で、彼らは「お願いします、何かください」という下の立場。そうならないようにしたいんですけど、大きな流れの中でその構図がいつの間にか出来上がってしまう。一番の例は津波で家が流された人たちに住宅を作って提供する仕事を、現地コーディネーターとしてやっていた時のことです。家ができて皆さんに鍵を渡します。良かった良かったと思っていると、次の日に「電球が切れているから交換してくれ」と言いに来る。ちょっと待ってください、と正直思いました。怒ったわけじゃないけどショックでした。当時のスリランカで100万円ぐらいする家をもらって、翌日に30円ぐらいの電球をもらいに来る。同じように「あっちの村では提供された家にソファーセットがあった」とか「扇風機がない」と言ってきます。彼らに悪気があるわけじゃなくて、「もらって当たり前」みたいな雰囲気ができてくるんです。
NGO業界では『援助漬け』とよく言うんですが、援助に慣れない、頼りすぎないようにといろいろ考えても、どうあがいても結局は『援助する側とされる側』の構図になってしまいます。自分も被災者になって援助を受ける側になれば同じだと思うんです。受け取る側はなるべく多く、上手くもらおうと考えます。支援は大事ですが、その枠組みの中での限界をずっと感じていて、そこで立ち止まって考えたことで出てきた回答がソーシャルビジネスでした。

「ちゃんとやれば利益に」で継続性が出てきます

例えばNGOが農村に井戸を掘って水が出ました。それは良い話なんですけど、数年後に行くと修繕する人がいない、管理する費用がない、という理由で井戸は使われていませんでした、というのはよくある話です。それは援助の限界です。でもこれが井戸の水を村で販売するアプローチまでできれば、それはずっと続くものになります。支援と違ってビジネスですからクオリティを高めないといけないのですが、「ちゃんとやれば自分の利益になる」という形ができれば、それがモチベーションになって継続性が出てきます。
ビジネスを通して社会の問題を解決する。そういった取り組みをここ10年ぐらいやっています。NPO法人アプカスは今も継続していて、スリランカでもNGO登録をしている組織なのですが、スリランカでは、ソーシャルビジネスをやるための会社を別途立ち上げていて、こちらで何かをやる時にはそちらの会社を名乗るようにしています。スリランカでNGOと言うと、その時点で「私の村にはこんな問題があります」と支援の形から話が始まってしまうので、「ウチはビジネスをやっています。ご興味があれば一緒に取り組みましょう」と言うようにしています。
日本でいわゆるNGOと言うと、専門家をどこかに派遣したり、緊急支援をするパターンが比較的多いのですが、ウチの場合は私がスリランカにずっといることもあって、いろんなリソースを繋ぎ合わせていく役割をやりたいと考えています。災害時等、緊急時には「支援」は当然必要ですが、アプカスとしては、もしも緊急的な「支援」を行っても、その支援を行いつつ、様々なリソースを繋ぎ合わせ、より持続可能な形を考え、取り組みたいと思っています。それが、ソーシャルビジネスという形に展開していけば、さらなる発展がそこにはあると信じています。

インタビュー/構成 Kenichiro Suzuki