technology コオロギで世界を救う! 持続可能な循環型タンパク質生産とは。 株式会社グリラス

昆虫食をネットや店舗で目にすることが出てきました。まだまだ珍しい商品ですが、この昆虫を使って世界のタンパク質供給不足の解決とフードロス対策を行うテクノロジーとビジネスを展開している企業が、株式会社グリラスです。

コオロギを活用した持続可能なタンパク質生産事業について、同社の渡邉CEOに話を聞きました。

渡邉CEOとコオロギパウダーを使った商品 (画像提供:株式会社グリラス)

大学発のベンチャー企業とお聞きしていますが、まずは、会社の設立の経緯を教えてください。

株式会社グリラスは、“コオロギの力で、生活インフラに革新を”をミッションに、コオロギを活用して、世界のタンパク質不足をサステナブルな仕組みで解決することを目標に、徳島大学発のベンチャー企業として2019年に創業しました。
もともと徳島大学では、コオロギが受精卵からどのように形作られていくか、基礎研究(自然や様々な現状を科学的により良く理解するための研究)を行なってきました。2016年に所属が変わることになったのをきっかけに、産業に関わる取り組みにも力を入れていく方針の中で、コオロギの食用化に関する応用研究も開始しました。以前より、コオロギの研究を社会に直接役に立てたいという想いもあり、自身にとっても良い機会となりました。
しかしながら、研究成果を社会に実装していくにあたり、一つの課題にぶつかりました。社会実装においては、一般的に産学連携として、大学の知財を活用したい企業に参画いただくことが多いです。当初より多くの企業から事業化の声がけがあったのですが、事業立ち上げの判断で止まることが多かったのです。その理由は、多くの企業が既存事業で食品などを扱っており、コオロギを使った新規事業が既存事業のイメージに悪影響を及ぼさないかという懸念を払拭できなかったためです。
この課題の解決には、自ら食用コオロギの活用実績を作り、世の中が普通にコオロギタンパクを利用するという社会的認知が必要だと考え、当初3名で株式会社グリラスを起業しました。
その後、業務提携や資金調達を経て、最終製品を販売するための自社ブランド C. TRIA(シートリア)の設立、徳島県の美馬で廃校を利用したコオロギの生産施設、研究施設も稼働し事業を拡大し、現在に到っています。

これまで食用としての認知が薄かったコオロギを扱うのですから、企業が参入を悩むというのも理解できます。しかしながら、創業後、わずか1年で、無印良品(株式会社 良品計画)よりコオロギせんべいが2020/5に発売されました。ネットでも売り切れ続出と聞いています。コオロギに対するイメージの変化を感じられますか。

無印良品計画さんは、弊社の取り組みに将来性を感じていただき、トップの意思決定で商品化を進めていただきました。そのため、前述のような課題で検討が止まることなく、大変迅速に商品化が進みました。
コオロギせんべいの発売後は、信頼度の高い大手企業が採用したという事で、企業の反応も大きく変わってきています。

コオロギを扱っていることは理解したのですが、実際にどのような事業をされているのでしょうか?

私たちのビジョンは、”Hello! New Harmonies.”で、コオロギとテクノロジーが生み出す新たな調和(ハーモニー)で、健康でしあわせな未来に貢献する事です。
世の中では食糧不足が起きている一方で、食品ロスとして食料が捨てられている状況があります。この課題を解決する仕組みを作るために、コオロギによって、環境にやさしいタンパク質の供給することと、食品ロスの解消に寄与することをミッションに事業を進めています。

グリラスのミッション (資料提供:株式会社グリラス)

タンパク質の供給源として、コオロギが優れている理由は何なのでしょうか?

まずコオロギを含む昆虫全体と既存の畜産を比較すると、動物性タンパク質を1kg生産するための環境負荷が、牛や豚、鶏などと比べて大変低いことが挙げられます。下図のように、生物の育成には水やエサの消費や温室効果ガスの排出が避けられません。これらを低く抑えタンパク質を生産することは、地球環境への負担を軽減することになり、持続可能なタンパク質供給へとつながります。

1kgの動物性タンパク質を作るための環境負荷(資料提供:株式会社グリラス)

その中でなぜコオロギが優れているかというと、省スペースで育てられるなどの基本的な要素の他に、雑食性であるという特性によりエサを容易に取得することが可能なためです。

下記の図にあるカイコであれば桑の葉が必要ですし、バッタでは生の葉、シロアリでは木が必要となります。大量に飼育できても餌の供給に困ります。一方、コオロギやミールワームは雑食性で幅広いエサを食べることができます。

昆虫の種類による食料化への向き不向き(資料提供:株式会社グリラス)

昆虫の中にはイエバエのように腐敗した微生物をエサとするものもありますが、人が食すための材料としては、衛生管理が難しいと考えています。
以上のような理由から、コオロギは、コスト、効率の面で他の昆虫より優れている生物と考えています。

昆虫といっても、大量生産や食料として向き不向きがあるのですね。
では、コオロギ利用におけるグリラスの強みは、どのあたりにあるのでしょうか?

私たちのテクノロジーの強みは、主に3つあります。
1つ目は、食品残渣の活用技術です。先ほど、コオロギは幅広いエサを食べると言いましたが、高効率にコオロギを飼うにあたり、100%食品残渣を使い実現できる技術を確立しています。(特許出願準備中) 残渣であれば何でも良いわけでなく、質・量ともに安定して排出されるようなものである必要があります。 グリラスは主要な農産物を一次加工する時に出る残渣を利用する技術を持っているため、エサの品質やコストを安定化させられることも強みとなっています。

2つ目が、コオロギのゲノム編集技術です。
この技術は世界でグリラスしか持たない技術で、コオロギの品種改良に役立てています。
グリラスが現在扱っている品種は「フタホシコオロギのアルビノ系統」になり、徳島大学の研究にてこの系統に関する「ゲノム編集技術や、生育ノウハウを蓄積」してきました。
これによって得られるメリットとして、
①ゲノム編集技術を用いた高効率な品種改良が可能
②生育ノウハウから安定した生産が可能
があげられます。

コオロギ飼育の研究現場(画像提供:株式会社グリラス)

最後の強みが、コオロギの自動飼育システムです。こちらは株式会社JTEKTと徳島大学と共同開発を進めています。コストを下げつつ、安定した品質でコオロギを飼育するため、自動飼育システムの開発が重要です。現在、プロトタイプが美馬のファームで稼働中です。

これらのテクノロジーを組み合わせることで、コオロギを単なる昆虫食とするのでなく、社会で発生する残渣から新たな食料を生産する、持続可能な循環型食品サイクルを作れることが、グリラスの強みです。
私たちは、このような特徴を持つコオロギを“サーキュラーフード”と位置付け、利用を確立させたいと考えています。

グリラスの考えるコオロギを介した循環型社会の仕組み(資料提供:株式会社グリラス)

冒頭でお話がありましたが、グリラスでは消費者向けの商品の開発と販売を直接行なっているそうですが、その理由について教えてください。

原料の製造だけをしていては、どういう人がどんな気持ちで最終製品を手に取られているかはわかりません。新たな食文化として、コオロギを根付かせるためには、グリラスが消費者を理解することが重要と考え、C. TRIA(シートリア)というブランドを立ち上げました。

現在は、クッキーとクランチの2種類を扱っていますが、今年の秋にかけて主菜になるような商品も提供予定です。

C. TRIA クッキー パッケージ(画像提供:株式会社グリラス)

環境問題や食料問題は、世界的な課題と考えています。海外における事業の展開について、どうお考えですか?

すでに海外向けの市場調査を進めており、まずは東南アジアで検討しており、海外での生産もできるようにしていこうと考えています。
海外への進出については、エリアごとの特性を考慮する必要があると考えており、日本のような先進国、東南アジアなどの新興国、タンパクの供給が足りていないような貧困国で大別して考えています。我々の製品が製造できるのは、先進国と新興国であり、これらの国はコオロギのエサとなる食品ロスが大量に発生している地域とも言えます。
最終的には貧困国に近い先進国や新興国で生産したタンパクを、貧困国に届けることができるようになればと考えています。

グリラスの今後の展望について、教えていただけますか?

まずは日本でしっかりした基盤を作ることが重要です。コオロギを年間10万トン生産することを目標にして、技術やビジネスの拡大を進めていきます。10万トンのコオロギは、日本の全人口が必要とするタンパク質の数日分にあたります。
一方で、日本で排出されている食品ロスが年間2500万トンあると言われており、10万トンのコオロギの生産は、食品ロスの1%程度を循環利用することにもつながります。
並行して、前述のようにまずは東南アジアから調査を進めており、現地生産と周辺エリアでの流通を計画していきたいと考えます。

最後に、読者さんに一言いただけますでしょうか?

コオロギを普通の食品として感じてもらえるように、日々努力をしています。
商品を目にすることがあれば、ぜひ試してもらえたらと思います。

渡邉さん、ありがとうございました!

大屋 誠

大屋 誠

クラウドサービス開発や新規事業のR&Dを経て、現在はヤフーにてデータ コンサルティング事業に従事。 事業開発や国内外の技術評価の経験を活かし、アシタネプロジェクトに参画。技術やサービスのキュレーションや、人材教育支援のプログラム開発に従事。東京から福岡に生活拠点を移し、週末は養鶏や農業など楽しむ。