technology ネパールにおけるroof top farming事業

※写真:国連ハビタット提供

現在、世界の5人に1人が安全な水を飲めず、途上国に住む約26億人がトイレなどの衛生施設を満足に利用することができない状況にある。この背景として、アジア太平洋地域では人口増加に伴い、多くの都市が経済発展を遂げているが、上下水・廃棄物・エネルギーなどのインフラ整備が追いつかず、様々な課題が生まれてしまっていることが挙げられる。

また、地震や洪水など自然災害も度々発生しており、気候変動の影響もあるため、年々件数や被害の規模は拡大してしまっている。
そのため、人口増加に対応すべきインフラの計画やレジリエンスの高い設計など持続可能な都市開発やまちづくりが必要とされている。

※写真:国連ハビタット提供

それらの状況を鑑み、国連ハビタットでは、2008年から「いのちの水」事業を開始し、上下水道の普及が追い付かない中小規模都市やコミュニティを対象に安全な水の提供や衛生環境の向上に資する事業を実施してきた。

また、ネパールでは、水だけでなく、増える人口に対して食糧自給率の向上という課題も持つ。なかでもネパールでは本来国の6割が農業に従事する農業国でありながら近年食糧の輸入が急増していたが、特にCovid-19の感染が拡大し世界的にロックダウンが実施されると一時的に食料輸入が滞り、一般市民の間にも食糧需給に対する危機意識が高まった。
同時に有機栽培への関心も高まっており、コミュニティ単位での堆肥づくりなどを提唱する地方政府も増えてきた。

※写真:国連ハビタット提供

しかし、ネパールのマドヒャプルシミ市は、平地が少なく、住宅が密集しており、農地などに使える場所が非常に限られている。そこで、もともと建物の屋上が家庭菜園として一部活用されていたため、それを拡大し事業として「roof top farming」が立ち上がることになった。

ただ肥料を用いるだけでなく、土壌改良も事業として取り入れられることになり、株式会社ティーアンドエスの技術協力を受け、「微生物活性材バクチャー 」が採用されることになった。マドヒャプルシミ市の住民を対象に市長自らも参加しての研修やワークショップが開催され、日本ともzoomで接続し、株式会社ティーアンドエスから「バクチャー 」の使い方のレクチャーなども行われた。

一般的に、痩せた固い土では、単粒構造となっており、水や空気が土の中に十分に浸透しない。この状態では、土中の微生物は十分に活動することができず、いくら肥料や堆肥を与えても植物はそれを栄養にすることができない。

土壌改良が上手く進みにつれ、団粒化が進み、土中が団粒構造へと変化していく。言わば、土がスポンジのような構造になっていくのだ。こうなると、水も空気も土中に浸透することができ、酸素が必要な微生物も活動を開始する。その状態で堆肥をあげれば、植物が根から栄養を吸い上げることができるようになる。

※写真:国連ハビタット提供

2021年からスタートした「roof top farming」だが、2022年3月には農作物の収穫もできるようになり、マドヒャプルシミ市で品評会的なExihibitionも開催された。

※写真:国連ハビタット提供
※写真:国連ハビタット提供

初年度は100世帯が対象だったが、Exihibitionを受けて大変好評であり、他のコミュニティからも導入の要望が非常に多い。次年度は世帯数や規模を拡大して実施する予定である。

また、これをきっかけに現地でのスモールビジネスの構築など、展開の幅も広がる可能性が出てきている。

小野 誠(環境コンサルタント)

小野 誠(環境コンサルタント)

大手通信販売会社を経て、インターネットビジネスのベンチャー企業の立ち上げなどに携わる。息子が生まれたことにより次世代に残す地球環境への意識が高まり、微生物活性材「バクチャー」にジョインした。日本及び東南アジアの水質浄化、土壌改善などの経験をもとに環境コンサルタントとしてアシタネプロジェクトに参画。