technology 特許技術の循環型 食品廃棄物/残渣乾燥処理技術による再資源化

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エコステージエンジニアリング株式会社

私達が生活して行く上で廃棄物の発生は避けては通れない。人口が増えれば量は増加し、時に周囲の環境を悪化させている。
エコステージエンジニアリング株式会社は、同社特許技術の”油温減圧式乾燥法”による食品廃棄物や残渣の効率的な処理と資源化を実現する企業である。
近年、この技術が、開発途上国への需要にも応えようとしており、同社 中園 英司社長に、技術と活用内容について伺った。

油温減圧式乾燥法

”油温減圧式乾燥法”は、水産物、農産物、畜産物、下水汚泥、し尿汚泥、生ゴミなど有機系産業廃棄物を資源化する乾燥技術である。
有機物を効率的に乾燥させることで、ゴミにせずに、飼料や肥料、燃料にする循環技術である。
図1のように装置に油と廃棄物を今後したものを投入し、装置内で加熱することで廃棄物と水分を分離してとりだすことができる。

図1. 油温減圧式乾燥装置の内部構造

(提供: エコステージエンジニアリング株式会社)

中園氏によると、この技術は”天ぷら”で説明できるという。
装置内で加熱された油に廃棄物を加えると、天ぷらのように油にいったん沈み、激しく泡が発生させる。この泡は廃棄物の水分で、水分が抜けて軽くなった廃棄物は浮き上がってくる。
その上、油の入った釜を減圧することで、内部の油の沸点を下がり、効率良く廃棄物を乾燥させる。
また、装置の減圧は、廃棄物が空気に触れる機会も減らすため、油や廃棄物が酸化を抑えることができるため、生成物を飼料や肥料などに再利用する上での品質管理が容易となる。
これによって乾燥した原料は、写真1のような状態になり、廃棄されるはずのものが、飼料や肥料、燃料として生まれ変わる。

写真1. 油温減圧式乾燥後の食品残渣飼料

(提供: エコステージエンジニアリング株式会社)

食料の廃棄物を処理する仕組みは他にもあるが、同社の技術は処理効率に加えて、資源化による環境負荷の軽減や収益機会に優れている。
例えば、80%を超える含水率の食品残渣原料においても10t/90分程度で含水率3-5%まで均一に乾燥させることが可能な能力がある。
また、水溶性たんぱく質を固形物中に閉じ込めるので、対象物のたんぱく質のほとんど製品に残すことができ、結果として分離した水は比較的負荷の低い水質となる。

レンダリングから食品廃棄物全般の処理企業へ

食肉加工において発生する廃棄物を再び飼料や肥料にすることは、”レンダリング”と呼ばれている。
同社の前身の会社はレンダリングにおける技術の国内有数企業で、国内の食肉需要が増える中、廃棄物の扱いへのニーズに答える形で実績を増やし、現在でも10社程度で稼働している。

近年、食料の廃棄物は食肉に限らず、弁当など多くの食料の廃棄物が存在し、廃棄物の削減と同様に、廃棄物の効率的な最資源化が事業者の課題となっている。
しかしながら、レストラン、食品工場等から排出される残渣やロス品には様々な食材が含まれおり、水分量や油分量が均等でなく、処理に課題を抱えていた。
レンダリング事業からの事業拡大を検討していた同社は、この課題への対応に取り組んでいった。

食品廃棄物を資源化するには、ムラなく水分をのぞく必要がある。油温減圧式乾燥では、媒介物である油を廃棄物と均一に混ぜるため、水分量がまばらであっても均等に水分を除くことに優れていた。
併せて、油なので廃棄物に含まれる水溶性タンパク質を逃さないため、資源化した際に必要なエネルギーを逃さない利点もあり、国内の食品廃棄物の処理を行う企業に採用が進んだ。
これまで廃棄物として捨てられていた物が良質な資源となる仕組みとなることで、廃棄物から収益を生み出す新たなバリューチェーンを産み出し、同社の技術はさらに浸透していった。

写真2 レンダリングプラント

(提供: エコステージエンジニアリング株式会社)

モロッコにおけるオリーブ搾汁粕の資源化事業

同社の技術は、海外の課題にも対応を始めている。
2016年に国際協力機構(JICA)による中小企業海外支援事業に採択され、モロッコ国オリーブ搾油粕の資源化と事業化のため同国に装置の設置を行い、普及・実証事業を行っている。

アフリカの北部にあるモロッコは、古くからヨーロッパに近く交易や交流が盛んな土地である。
近年、モロッコ政府は地の利を活かした、特区政策などの産業誘致施策もあり、多くの企業が欧州向けやアフリカ向けの事業を目的にモロッコに進出をしている。
日本企業も例外ではなく、自動車関連の企業などが進出をしている。

モロッコ政府は、主力の農業事業として、オリーブ栽培の振興とオリーブオイルの生産に力を入れており、オリーブの生産高では2018年のFAO(Food and Agricauture Organization)統計で世界3位(出典 FAO)となっている。一方で、オリーブオイルの製造過程で発生する搾汁粕の量も増加をしており、処理できずに河川や土壌に投棄され、水質や環境の悪化が問題となっていた。写真3は、搾汁粕の廃棄のために現地で作られたプールである。生産拡大により巨大なプールが増え、コスト的にも環境的にも問題となっている。

写真3. オリーブ搾汁粕の投棄プール

(提供: エコステージエンジニアリング株式会社)

同社は、JICAの働きかけで、モロッコ政府で河川を管理している部署とやりとりを開始、油温減圧式乾燥装置によるオリーブ粕の処理を試験した。その結果、油分が多く栄養価も高いオリーブ粕は相性もよく、茶色に濁った搾汁は乾燥した飼料と透明性の高い液体に変わった。また、乾燥過程において、(オリーブ)油が微増した。
オリーブ粕の資源事業化と搾汁汚染の改善について、油温減圧式乾燥装置の可能性は認められ、2019年11月に現地で装置を設置し実証が始まった。

同社は実証にあたり、簡易に運搬や設置が可能なコンテナ搭載のミニプラント(写真4)を開発した。
また、現地で自律的に運用を行うえるようにするため、現地エンジニアに装置の原理からメインテナンスの方法までを指導した。
原理や実際に効果を目にしたエンジニアの意欲も高く、前述のようにシンプルな構造のため、スキルの転換もスムーズに行うことができた。
同社の指導が終わった後、ちょっとした機械のトラブルにも、エンジニアは地元にある部材を活用して対応がされたという。

同社の取り組みは、2020年度の「はばたく中小企業・小規模事業者300社」の賞を経済産業省(中小企業庁)より受けている。

写真4.モロッコに導入されたミニプラント

(提供: エコステージエンジニアリング株式会社)

オリーブの搾汁は、オリーブの収穫時期である冬に集中する。
新型コロナウイルスの感染拡大で、2020年度は活動を見合わせたため、収穫時期の本格的な実証はこれからである。

資源化と事業化にあたっては、収支効率を上げるためにプラントの規模も大きくする必要がある。
環境負荷の軽減などコストに考えることが浸透していない現地において、環境改善の効果や飼料資源化も含めた、投資を呼び込むためにも実証の再開が待ち遠しい限りである。

写真5. プラントの現地見学会の様子
大屋 誠

大屋 誠

クラウドサービス開発や新規事業のR&Dを経て、現在はヤフーにてデータ コンサルティング事業に従事。 事業開発や国内外の技術評価の経験を活かし、アシタネプロジェクトに参画。技術やサービスのキュレーションや、人材教育支援のプログラム開発に従事。東京から福岡に生活拠点を移し、週末は養鶏や農業など楽しむ。