Green Carbon 株式会社
日本は世界でも有数の米の生産国だ。生産量では世界10位。市場価格の低下や後継者問題など多くの問題を抱えているが、現在も約140万haの作付け面積を誇り、水田は日本の代表的な風景として認識されている。
そんな水田を利用した温室効果ガスの削減と農家への収入を生み出す取り組みを世界規模で行っているのが、Green Carbon株式会社だ。
今回は同社CEO 共同創業者の大北氏に、同社の事業内容と取り組みについて話を聞いた。
事業内容についてお伺いしても良いでしょうか
私たちは農業由来のカーボンクレジットを作っている会社で、「生命の力で地球を救う」をビジョンに活動しています。
どういうことかというと、再生可能エネルギーや太陽光パネルを使って、脱炭素を進めるのでなく、自然が本来持っている生命の力を最大限に活かすことを目指しています。 このため、農業や林業などを由来としたカーボンクレジットを扱っています。
事業内容は大きく3つあり、1つ目がカーボンクレジットの創出販売事業、2つ目はESGコンサルティング事業、3つ目に植物デザイン(R&D)事業になります。
植物デザイン事業とは、研究開発で、例えば、稲と微生物を共生させることによって 肥料を使わずに大きく育つような開発などを行っています。
会社は、東京に本社に構え、オーストラリアにも展開している状況で、フィリピンとベトナムへも支社設立を進めており、アジアは稲作、オセアニア、中南米に関してはカーボンファーミング 土壌炭素貯留を展開しています。
アクセンチュアの調査によると、企業の93%は自社でのカーボンニュートラルの達成は困難との結果を出しています。
その中でカーボンクレジットがカーボンニュートラルの代替策になると考えています。先日も東証でカーボンクレジット市場が設立され取引の注目度は高まっています。
一方、J-クレジットの2030年までのクレジット創出目標は1500万トンと、国内のCO2排出トップ20社排出量の3.8億トンとは大きな開きがあります。
このため、需要と供給のバランスのためにも、当社としてはクレジットの供給量をどんどん増やして行きたいと考えています。
では、なぜ農業に注目しているかというと、農林水産省さんのデータによると温室効果ガスの削減ポテンシャルは、森林が656万トンに対して、農地が2,900万トンで、農地の方がポテンシャルが圧倒的に大きいという状況になっているためです。
農地においてのクレジット創出方法は様々あり、再生型農業としての緑肥の利用、稲作、バイオ炭、牛のゲップ対策などに取り組んでいます。
稲作におけるカーボンクレジット創出について、詳しく教えてください。
なぜ当社が、稲作に注目しているかというと、日本における農業由来の温室効果ガスの30%が稲作から出ているからです。
どういうメカニズムかというと、田んぼの土壌には嫌気性細菌がいて、田んぼに水を張っていると土壌に酸素が入らないので活発に働き、メタンガスが排出されます。一方、田んぼを中干しとして、水田から水をひくと、土壌に酸素を入るため、メタンガスの発生が減るというわけです。この差分がカーボンクレジットになります。
農家としては水を一定期間ひくだけなので、初期費用をかけず、収入を得ることができます。
このクレジット認証を、J-クレジットが2023年3月に開始しました。
とても簡単そうですが、課題はないのでしょうか?
カーボンクレジットを取得しようとすると、特殊な計算をする必要があり、かつ申請書も多くあります。
また、審査員がチェックをする必要があり、それに約200万円程度かかるため、農家さんにとっての大きな負担になります。
このため、稲作コンソーシアムという組織を発足させ、農家さんの登録手続き、クレジット売買を代替し、かつ登録費用支援を受けることで登録を無料にする仕組みをもうけました。
また、環境に配慮したお米であることを証明するロゴを作成し、ブランド米として販売ができるような取り組みを進めています。
この取り組みを加速させるために、どのようなテクノロジーを活用しているのでしょうか。
様々ありますが、その一つが衛星画像の利用です。
グリーンウォッシュという言葉があるように、カーボンクレジットの質(信頼性)も全世界的に重要視されています。
さきほど説明したように、田んぼから落水させた証拠を農家さんから送付してもらいますが、農家さんの平均年齢は70歳を越すので写真撮ることすら面倒だったり、信頼性の課題も残ります。
そこでJAXAと連携し、衛星で水位を計測するプロジェクトを進めており、宮城県とフィリピンで実験中です。
さらに、アプリやブロックチェーンを活用して、簡単に記録ができながら、改ざんの心配もなくす試みを進めています。
田んぼの中干しの期間を伸ばすことに、農家の方の懸念はないのでしょうか。
”ほとんど”というと、語弊があるかもしれないですが、中干しの延長に関してはリスクにならず、収益が得られればボーナスようなものと評価いただいています。
毎日のように、農家さんから農家さんへと紹介していただいている状況です。
2023年11月時点で、約8000haの水田農家さん、120社の企業/農業法人が参画しています。
国内に140万ヘクタールの水田がありますので、クレジット創出量に換算すると、約140億円の市場価値になります。
海外での可能性について、教えてください。
アジアに目を向けると、日本より圧倒的に広い面積の水田が存在します。
アジアの水田面積は、8900万haになります。また、年に複数回の稲作をするため、温室効果ガスの削減量はさらに数倍となります。
私たちは、アジアにおいても水田のカーボンクレジット創出を進めるため、フィリピン、ベトナム、バングラデシュ、タイ、インドネシア、カンボジアにおいて、日本政府の協力を得ながら、JCMという2国間でのクレジットの創出配分に取り組んでいます。
海外での取り組みは、日本とは異なるのでしょうか?
どんな取り組みか教えてください!
日本は中干しにより温室効果ガスの削減量は、農林水産省が計算式を示しており、すぐに推計できますが、アジア各国では計算式がなく実測が必要です。
フィリピンでは、フィリピン大学と共同して、中干しの効果を実際に計測しています。
チャンバーという透明な箱にメタンガスが溜め、注射器で吸い取って、メタンガスを計測します。水田に水をはっている時に比べ、水を抜いた場合にメタンガスが減少していることを確認しています。
こういった実績を元にフィリピン政府や地方自治体と連携し、メタンガスの削減だけでなく、米の収量も4%が上がるなど良い結果を得ています。
稲作のカーボンクレジット創出について、その他取り組みがあれば教えてください。
当社では、クレジット申請のDX化に力を入れています。
Agreenというサービスをリリースし、クレジットの申請から販売までを、スマホやPCから行うことができるように進めています。
現在は、国内限定ですが、タイ、ベトナム、フィリピンでも展開できるよう準備を進めています。
稲作の対応を中心にお話をお聞きしましたが、会社全体の今後の展開について教えてください。
世界における農業分野の温室効果ガス排出量は、稲作が約10%に対して、牛のゲップは約40%となっています。このため、2024年からは牛のゲップに関わる温室効果ガス削減とクレジット化のプロジェクトを進めます。
また、長期的な取り組みとして、「生命の力で地球を救う」というミッションに沿って、全世界で利用できてない土地の緑地化を推進したいと考えています。
世界には未利用地が約20億haあり、例えばオーストラリアには3.2億haあります。そこは土壌の塩分が多く、ほとんど植物が生えません。私たちは大学と連携し、塩分に耐性のある植物を開発し、土地の緑化によるカーボンクレジットを創出する取り組みを2026年を目標に進めています。
スケールの大きなお話ですね! ワクワクします。
ぜひ私たちがお付き合いしている、農家さんを応援してください。
ヨーロッパでは、サステナブルライスというものがあり、通常の商品よりも高い値段で環境に配慮した米が取引されています。
現在、中干しでカーボンクレジットを生み出したお米を皆さんに認知してもらえるよう、ロゴを作っている最中です。 ぜひ、お店やネットで見かけたら、購入してみてください。
環境配慮した農作物を選べることが当たり前になれば社会になればと思っています。
また、私たちは「生命の力で地球を救う」というミッション達成のため、仲間を募集しています。もし、私たちのミッションにジョインしたい方がいましたら、気軽に問い合わせをかけてください!
どうもありがとうございました!
大屋 誠
クラウドサービス開発や新規事業のR&Dを経て、現在はヤフーにてデータ コンサルティング事業に従事。 事業開発や国内外の技術評価の経験を活かし、アシタネプロジェクトに参画。技術やサービスのキュレーションや、人材教育支援のプログラム開発に従事。東京から福岡に生活拠点を移し、週末は養鶏や農業など楽しむ。