株式会社カネカ
軽量で丈夫なプラスチックは、私たちの生活で毎日触れる身近な素材だ。プラスチック製品が生活に欠かせない昨今、一方では海洋におけるプラスチックごみ問題が深刻化しており、2025年には世界の海洋に2億5000万トン以上のプラスチックがごみとして存在することになるという。
*McKinsey & Company and Ocean Conservancy(2015)
有料化によるプラスチック袋の使用量削減、ペットボトルなどの資源のリサイクルなどの対応が官民一体となって進む中、自然界にも存在し、生分解される素材“カネカ生分解性ポリマー Green Planet(以下、Green Planet)”を独自の技術で開発し、環境問題へのソリューションとして日常生活に欠かせない製品への普及を進めているのがカネカである。
Green Planetの社会へのインパクトは、植物由来の原料の使用により、石油由来の汎用樹脂とは異なり、燃やした際に地球上のCO2を増やす事無く(植物由来アプローチ)、また、優れた生分解性が自然界での生分解を実現し、環境への影響を大幅に軽減することにある。これらは、前述のごみ減量やリサイクルなどと組み合わせる事で、プラスチックごみ問題や環境変動の問題への施策の軸、すなわち環境ソリューションとなりうる事である。
このGreen Planetの開発、普及を進めている同社Green Planet推進部 茂呂氏にGreen Planetの内容やその可能性について話を聞いた。
カネカ について
カネカ は日本の化学メーカーで、化成品や機能性樹脂などの原料素材から、カテーテルなどの医療機材、コエンザイムQ10に代表されるサプリメント原料、発酵バターなどパンや菓子の食品原料など幅広く事業展開している。
同社は経営理念として、”健康経営 – Wellness First”をかかげており、化学技術を通して、世界を「健康」にする社会的課題に取り組むとして、環境や地域社会も含めたマルチステークホルダー向けの企業活動を進めている。
Green Planetについて
Green Planetは、私たちが生活で一般的に利用する植物油を原料に、発酵技術によって産生した100%植物由来の素材である。
Green Planetは、微生物が体内に蓄積するエネルギー貯蔵物質である。微生物は保有する酵素によりGreen Planetを分解してエネルギー源とすることができる。GreenPlanetは自然環境中に存在する微生物でも生分解される。
Green Planetは微生物の”発酵”により製造されるが、工業製品として安定した製品を大量に作るためには度重なる培養条件や製造条件の調整が必要であった。さらには用途開発に必要な樹脂成形においても、加工性改善などの地道な努力を要した。
Green Planetの普及活動
海洋プラスチックごみ問題を無くし、カーボンニュートラルな社会を目指すにあたり、生活の利便性を確保するには、現在生活で多用されている石油由来の使い捨てプラスチックの代替材料が必要となる。植物由来のGreen Planetは自然界にも存在するポリマーであり、使い捨てプラスチックの代替材料として期待されている。
リサイクルやリユースによりプラスチックごみを削減する取り組みがなされ始めているが、リサイクルが容易でないケースとして食品などの包装材料(食べ物の包装やお弁当の容器など)が挙げられる。GreenPlanetは食品と一緒にコンポスト処理できる事より、Green Planetの特長を生かした取り組みが進められている。
食品包装材料は、食品衛生に関する法規制が各国で定められており、同社は、Green Planetの世界への普及に向け、各国の法規制に対応すべく認証の取得を進めている。日本、米国、EUなどの、事前の認証が要件となるポジティブリスト方式の制度国や地域では既に認証を取得しており、現在、これら主要国以外の国・地域に対しても認証取得の対応を順次進めている。
加えて、海洋ごみ問題で危惧される、海中に漂うマイクロプラスチックが生態系や人々の健康へ影響を与える懸念に対し、海水中での生分解認証「OK Biodegradable MARINE」を取得している。
これまでの食品包装では”様々な状況でも変化しないもの”が求められてきた。 Green Planetが各国の制度に認証されGreen Planetの特長である生分解性が正しく理解される事で、適切な製品ライフサイクルが確立され生活に普及されると同社は考えている。
Green Planetの採用事例
海洋プラスチックごみ問題への意識の高まりもあり、各社でのGreen Planetの採用が増えてきている。
セブン&アイ・ホールディングスは同社と脱プラスチックの取り組みとして、Green Planetを活用した商品の共同開発を行っている。その成果の一つとして、セブンイレブンは約10,000店舗向けにGreen Planetを使用したストローを提供している。
また、資生堂においては、Green Planetを利用したリップパレットを数量限定で販売した。
限定的な取り組みではあるものの、Green Planetが環境に与える好循環に企業が期待をしていることがわかる事例と言える。
新興国における取り組み
Green Planetの普及に向けた取り組みは新興国でも始まっている。同社は、JICAや国連機関のUN-HABITATと連携して、ケニアでの取り組みを始めている。
ケニアでは、2017年よりプラスチック袋の生産、輸入、利用を禁止する法律が施行された。
背景として、環境被害だけでなく、廃棄されたプラスチック袋による家畜の誤食や、プラスチック袋が排水溝に詰まり雨水による浸水被害などがあるという。
同社はJICAのプロジェクトを通じて、ケニア政府と連携してGreen Planetの普及に関わる3つの評価を進めている。新型コロナウイルスの影響により、取り組みは初期段階とのことだが、社会実装として今後の対応が楽しみな取り組みである。
また、UN-HABITATでは、”Waste Wise Cities Tool(WaCT)”として、都市問題の大きな要素であるごみ問題の対応として、固形廃棄物に関する段階的なアセスメントを可能にする取り組みを行なっている。アセスメントに重要なデータ収集を行う取り組みとして、ごみ収集を行う際、カネカの生分解性ごみ袋を使用して実証を行っている。(写真5,6)
廃棄物を資源へ 生分解による循環の可能性
人間の活動において廃棄物を減らすことはできても、これをなくすことは難しい。
Green Planetは、これまで素材のリサイクルか廃棄しかなかった選択肢に、その優れた生分解性により肥料化という選択肢も提示可能ではないかと考える。さらに、同社は使用済の食用油(廃食油)をGreen Planetの原料として生産で実用化する取り組みを進めている。
図3はashitane編集部で想定した可能性を図示したものであるが、今回のヒアリングを通して、Green Planetには将来このような循環の可能性も感じられる。
同社は、変わらない丈夫な素材を求められていた生活用品素材に、環境にやさしく安全な素材であるGreen Planetを提供する事で、健康と環境課題の両課題に向き合っている。
同社の取り組みがさらに多くの商品となって、世の中に出回る時が楽しみである。
大屋 誠
クラウドサービス開発や新規事業のR&Dを経て、現在はヤフーにてデータ コンサルティング事業に従事。 事業開発や国内外の技術評価の経験を活かし、アシタネプロジェクトに参画。技術やサービスのキュレーションや、人材教育支援のプログラム開発に従事。東京から福岡に生活拠点を移し、週末は養鶏や農業など楽しむ。