technology 日本初のゼロエネルギーホテル「ITOMACHI HOTEL 0」

愛媛県西条市に日本初のゼロエネルギーホテルが誕生した。ITOMACHI HOTEL 0(ゼロ)と名付けられたそのホテルは隈研吾氏の建築設計で、なんとそのプロジェクトの中心となったのは、グローバルでの半導体関連機器製造を中心に、近年は再生エネルギーなども展開する株式会社アドバンテック。「まちづくり」という異分野への挑戦はどのようにして始まったのか。

▲ ITOMACHI HOTEL 0 外観  撮影:「Yoshiro Masuda」

アドバンテックは、国内外で事業を展開していく中で、地方都市の活気のなさや閉塞感を感じることが多くあった。それは創業の地である西条市も例外ではなかった。何もしなければ、どんどんシュリンクしていく。その閉塞感を打破する必要があった。そこで、西条の土地を活用して、サスティナブルかつ地域の活性化ができないかということを考えるようになった。
しかし、地域の活性化などのノウハウがなく困っていた時、建築家の隈研吾氏との出会いがあった。
隈研吾氏へプロジェクトの趣旨や熱意を伝えて協力を仰ぐことができ、「糸プロジェクト」と名付けられたプロジェクトが始まり、中心となる土地は「いとまち」となった。
その「いとまち」に建設された、西条市外からの人の流れや滞在時間の延長を担う施設が、日本初のゼロエネルギーホテル「ITOMACHI HOTEL 0」だ。ゼロエネルギーとは、運営における実質的な電力消費ゼロという意味合いだ。
建物用途別のエネルギー消費量においてホテルは、飲食店に次いで床面積あたりの電力使用量が多い。これを実質ゼロにすることは脱炭素社会を加速させる大きな可能性を秘めている。ITOMACHI HOTEL 0は、日本のホテルで初めて環境省が定める「ZEB」 の認証を取得している。

画像引用元:https://www.env.go.jp/earth/zeb/about/index.html


ZEBとは、Net Zero Energy Building(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)の略称で、「ゼブ」と呼ぶ。
建物の中では人が活動しているため、エネルギー消費量を完全にゼロにすることは難しいが、省エネによって使うエネルギーをへらし、創エネによって使う分のエネルギーをつくることで、エネルギー消費量を正味(ネット)でゼロにすることができる。
災害発生時には非常用電源と水と食を提供できる防災拠点としての機能も併せもつという。

▲VILLA棟の客室  撮影:「Yoshiro Masuda」

もちろんこだわったのはエネルギーだけではない。客室は愛媛県⻄条市でみられる自噴井「うちぬき」 や、約2億年前に海底に堆積した岩が日本列島のできる地殻変動の際に隆起し地表に現れた「伊予⻘石」の美しい色合いを モチーフにデザイン。
森林から供給される木質由来の再生可能な非可食バイオマスを使用したTarkett社の再生塩ビシートやジーンズの切れ端を活用したSTELAPOP社の天板、再生ガラスを活用したベンチなど、館内の様々な場所に素材の循環を感じる工夫が施されている。

食については、地元愛媛の産地から仕入れた旬の野菜や果物がたっぷりと使われている。さらに管理栄養士監修の元、全粒粉・はだか⻨・玄米など、栄養価が 高く食物繊維豊富な食材をふんだんに活用し、抗酸化作用等のある栄養素が+10%、カロリーは-10%になるよう基準が設けられている。

ZEB(ゼブ)やZEH(ゼッチ)は、正直まだ耳にする機会が少ないと感じている。しかし、個人的にはとても重要な概念だと考えている。なぜなら、原子力発電、メガソーラー、風力発電など、これまでは中央で発電して各家庭に送電しているが、人口や世帯数が減少していくこれからの日本ではインフラ頼みはナンセンスになっていく。原子力発電はリスクが大きく、メガソーラーや風力発電は森林を破壊し生態系を壊してしまう。
やはりこれからはオフグリッドで、エネルギーは各ビルや各家庭で賄うようになる必要がある。「ITOMACHI HOTEL 0」がその先駆けとして、シンボリックな存在になるのではないかと個人的にとても期待している。

小野 誠(環境コンサルタント)

小野 誠(環境コンサルタント)

大手通信販売会社を経て、インターネットビジネスのベンチャー企業の立ち上げなどに携わる。息子が生まれたことにより次世代に残す地球環境への意識が高まり、微生物活性材「バクチャー」にジョインした。日本及び東南アジアの水質浄化、土壌改善などの経験をもとに環境コンサルタントとしてアシタネプロジェクトに参画。