有機農業というと、収量が上がらなかったり、作業が大変だったりでなかなか安定しないイメージを持っているのではないだろうか。
株式会社ジャパンバイオファームの小祝政明氏は、有機農業をBLOF理論として体型化することで、農業の高品質、多収穫を実現してきた人物である。
全国での講演は絶えず、延べで10000人以上にその理論を伝えており、国連を初め海外にも活躍を広げている。
小祝氏より、有機農業とBLOF理論について話を聞いた。
当時、有機農業を志されるキッカケは何だったのでしょうか。
幼少に体験した化学薬品による健康被害の体験が影響していると思います。
苦しい思いをした体験が、有機農業へ取り組むキッカケだったと思います。
理論を確立するにはご苦労もあったと思いますが。
いやー、悲惨でしたよ。虫でボロボロで、全く食べて行けませんでした。
今では偉そうなことを言っていますが、多くの出会いに助けられて今があると思っています。
当初は何が原因かわからなかったですが、試験場などいろいろな先生に出会い学ぶ中で、基本のBLOF(Bio Logical Farming)理論を確立しました。
当時、有機農業の理論は他に存在していたのでしょうか。 なぜ、理論作りに拘られたのでしょうか。
理論は存在しませんでした。ほとんどが”農法”と言われるものでした。
“農法”は植物や地域の生理に合わせなければ利用できなくなります、なぜミネラルが必要なのか、なぜ団粒(土の粒子が団子状に集まり、通気性にとみふかふかしてる状態)が必要なのか、有機農業において基本的な事項を理論とすることで、世界中どこでも有機農法ができるのではと考えたのです。
オーストラリア、アメリカ、中国、フィリピン、ザンビア多くの国に行きましたが、基本的に同じように対応ができました。
改めてBLOF理論について教えてください
私たちが野菜が摂取する栄養(ビタミン)は炭素と水素でできています。私たちが美味しいと感じるブドウ糖も炭素と水素でできています。
基本的に、体に良いものや美味しいものは、きちんと光合成して健康に成育しているものです。
BLOF理論は、植物生理に沿って、科学的・論理的に有機栽培を行う理論です。
ポイントは3つで、最適なアミノ酸の供給、ミネラル肥料の供給、C/N比を前提にした堆肥と太陽熱を利用した土壌作りになります。
アミノ酸に何故注目したのですか? アミノ酸の働きを詳しく教えてください。
私は、もともと組織培養などをしており、アミノ酸を使っていました。
そういう意味では、何故農業になるとアミノ酸を使わないのかは、とても不思議に感じていたのです。
慣行栽培と言われる化成肥料を使う栽培では、肥料として窒素(N)を加え、光合成でできた炭化水素(CHO)と結びつくことで、タンパク質を合成します。
一方、BLOF理論ではアミノ酸(CHO-N)を、発酵を利用した液肥として与えることで光合成でできた炭化水素をあまり使わずに、タンパク質を合成します。
*過去には、炭素と結びついた窒素は、植物に吸収されないという考えがあった。余った炭化水素は、植物自体の体作りに使われることで、病気や虫に強い植物になります。
ミネラルが必要というのは、人間でもよく言われますね
はい、ミネラルは植物にとっても大変重要です。
そのため土壌分析をして、育てる作物によって肥料をやる計画(施肥設計)を立てます。
理論とデータに基づいて、論理的に行うことが、BLOF理論のベースとなっています。
C/N比とは聞き慣れない言葉ですが、、
炭素(C)と窒素(N)の比率になります。
前述の通り、慣行栽培では無機窒素(N)を与えますが、窒素だけを加えても土中に炭素がないと、適正に窒素が利用されず病気の原因になります。
状況に応じて炭素も加え、窒素の比率を一定にすることが重要ということです。
どうして団粒ができるのですか?
有機物を液状化させ地中に流し込みます。 その液からビールのようにガスを出させると、ガスが土をバラバラにするからです。
冷たいビールを流し込むと再現するので、コールドビールシステムと名付けました。
ドイツの教授は、命名にうけてましたよ(笑)
有機農業がここまで理論的に体系化されていることに驚きました。
一方で日本ではオーガニックの市場がなかなか大きくならないと思うのですが、消費者の方の変化についてはどうお考えですか?
今回の新型コロナウイルスは、消費者の変化が大きいと思います。
食べ物や食べることについて、大変関心が高まっていると思います。
BLOF理論では健康で美味しい野菜が収穫できます。今後、野菜の販売時に抗酸化力の記載ができるようになると聞いています。
これまで有機農業というと、なんとなく体に良い、環境に良いと雰囲気での利用が大きかったのですが、定量的に情報が見れることはとても良いことだと思っています。
有機農業の普及状況は、国によって違うのでしょうか。
中国は大変早いスピードで有機農業が進んでいます。
技術でも日本を超えていると思います。
Bio Farm Chinaという企業ができて、たくさんの研究も進めています。
*中国は有機農業の耕地面積で世界3位、国内市場規模、輸出金額でも世界4位となっている。
出典:Research Institute of Organic Agriculture
2019年の国連の技術学術検討会議で、第一席となりました。
はい、国際連合総会において、SDGsをテーマにしたカンファレンスに招かれ、BLOF理論におけるザンビアでの事例を紹介しました。
開発途上国では、収益源である農業を広げることで、森の減少や水不足などの問題が発生しています。
BLOF理論により、有機物を用いた土づくりで、栄養価が高い農産物の多収穫栽培が可能となります。それにより、収穫量を減らさずに、耕作地の一部を森に戻すことで、水源を確保する取り組みを行いました。
新興国においてBLOF理論を実践するには、日本などと違いはあるのでしょうか。
ザンビアでも他国でも問題なく使えました。
ザンビアでC/N比を調整する時には、前年度に収穫したとうもろこしのカラを菌を使って培養した水溶液をまき、炭素を増やしました。
今まで3t程度の収量だったのが、最大で16tとれました。
土地によって対応方法は変わりますが、理論は同じように使えるのです。
最後に、今後の活動についてお伺いさせてください。
消費者へ有機農業やBLOF理論の良さを伝える対応として、BLOFソムリエという制度を考えています。 健康や美味しい野菜への興味は高まり、家庭菜園なども増えています。
BLOF理論の理解を進めてもらい、良い野菜について、消費者が情報を共有できるようになると良いなと考えています。
また、BLOF理論やツールの普及でたくさんのデータが集まるようになっています。
大量の実地データが集まることで、新しい事実も明らかになってきており、情報発信も進めていきたいと思います。
海外についても、2020年は新型コロナウイルスで対応が進みませんでしたが、たくさん声がけもいただいており、改めて推進していきたいと考えています。
ぜひashitaneの方々ともプロジェクトご一緒できればと思います。
小祝先生、どうもありがとうございました!
大屋 誠
クラウドサービス開発や新規事業のR&Dを経て、現在はヤフーにてデータ コンサルティング事業に従事。 事業開発や国内外の技術評価の経験を活かし、アシタネプロジェクトに参画。技術やサービスのキュレーションや、人材教育支援のプログラム開発に従事。東京から福岡に生活拠点を移し、週末は養鶏や農業など楽しむ。