technology 「技術」「しくみ」「ワクワク」 消費者を巻き込んで創る 地上資源の循環経済

株式会社JEPLAN

私たちの生活はたくさんの資源によって支えられている。そして、その資源の多くは地下から掘り出され、時には環境の汚染や紛争の元となっている。
「すでに掘り出された地上に存在する資源を廃棄せずに循環させられれば、戦争や環境の問題を解決できるのでは」、株式会社JEPLANは、16年も前から地上資源の循環経済について取り組んでいる。
現在、その技術は日本だけでなく海外でも評価され、自治体、アパレル企業、化学プラント企業など様々な企業との提携がそれを証明している。しかしながら、同社がユニークなのは技術だけでなく、消費者の関心を高め、行動を変えていくための取り組みも並行して行っている部分にもある。

今回は同社取締役執行役員会長の岩元氏に、同社の企業理念と技術、そして様々な取り組みについて話を聞いた。

まずは事業内容についてお伺いしても良いでしょうか

私たちの企業理念にある循環型ビジネスモデルの実現には、消費者や小売・製造事業者の参加が不可欠です。
創業当時から企業への環境コンサルや自社回収システムの構築を手掛け、日本最大級の衣類回収ネットワークを築くとともに、「楽しく」をモットーに消費者を巻き込むマーケティング施策を実施しています。

JEPLAN事業領域(提供:株式会社JEPLAN)

加えて、ポリエチレンテレフタラート(以下PET)の独自ケミカルリサイクル技術 「BRING Technology ™️」を開発し、全国から回収した不要な衣類の中からポリエステル100%繊維のものは自社工場で生素材にリサイクルしています。さらにはその再生素材を用いて自社製品をつくり販売し、 「服から服をつくる」完全循環(クローズドループ)を実現しています。 

企業理念にある循環型社会の実現ですが、とても難しい課題に思います。
JEPLANではこれをどうやって実現する想定でしょうか?

経済と環境と平和が並立する持続可能な循環型社会を目指していますが、創立当初は、“できるはずがない”、“事例がない”と、否定されることも多かったです。
私たちは、次の3つの条件が満たされれば、実現できるのではと考えています。
1つ目は技術で、「この世界にゴミは存在しない」と言うことを技術的に証明したいと考えています。
例えば石油から作られたものがリサイクルされなければ、ゴミとして燃やされCO2が排出され続け、また地下資源の採掘が止まらず、資源枯渇の不安や争いは絶えません。
しかしながら、当社のリサイクル技術のように対象物を分子レベルまで分解して、不純物を取り除き再資源化することができれば、当初と同等品質を保つ資源となりうるのです。

ペットボトルですと、現状主流の物理的なリサイクル(マテリアルリサイクル)の場合、微細な不純物までは除去できないため品質の劣化が伴い、リサイクルできる回数は限られています。しかし当社独自の化学的なリサイクル(ケミカルリサイクル)の場合、不純物を徹底的に除去することが可能であり、石油由来の原料とほぼ同様の品質に再生することで、半永久的なリサイクルが実現できます。私たちのコア技術の「BRING Technology ™️」はペットボトルを何度でもペットボトルへと資源循環を可能にするテクノロジーなのです。

2つ目は、消費者が中心に参加できる場づくりです。
消費者に「どこでリサイクルをしたいですか?」とアンケートしたところ、製品を「買ったお店」がトップでした。そこで、消費者がリサイクルに参加したい場所に回収BOXを設置するべく、百貨店やスポーツショップ、眼鏡店など様々な場所に回収BOXをおいていただきました。

衣類の回収BOX(提供:株式会社 JEPLAN )

これはただ回収拠点を設けるのでなく、消費者に向けて “環境課題”を提示することができる場となります。そして、その課題を技術としくみで解決するという体験を通じて更に共感、理解を深めていくというプラットフォームになるのです。消費者の意識を変えるには時間がかかります。そのため、段階的な取り組みとたくさんの接点が必要で、これまで数百の企業や団体と提携して、携帯電話、衣類、メガネ、おもちゃなどを回収し、リサイクル活動を続けています。

そして、3つ目は、「正しいを楽しいに」です。
当初リサイクルに興味がある人は5%程度だったため、残りの95%の行動を変容させるために、ワクワクドキドキのエンタメが必要だと考えました。
リサイクルをしましょうとイベントを実施しても誰も来てくれません。楽しく参加できるイベントにすることで、初めてリサイクルに関心がわくのです。

新たな地下資源を採掘せずに、廃棄物を地下資源と遜色なく再利用できるのは画期的ですね。リサイクル技術について、もう少し詳しく教えてください。

石油を「地下資源」と考えると、私たちは地下資源と同等の地上資源(リサイクルによって得られた資源)をうみだせる技術を開発したことになります。
地下から新たな資源を掘り出さなくても、地上にある廃棄物を新たな資源とすることができるのです。
また、これまでのリサイクル資源は、色や添加物を除去しきれないことで強度等の品質が劣化して、地下資源と同等の用途では使うことができませんでしたが、当社技術で作られた再生素材は、地下資源と同等の用途で使用することが可能です。

石油由来樹脂と再生ポリエステル樹脂製造時のCO2排出量の比較(提供:株式会社JEPLAN)

*1 同社の技術については、2019 年度に環境省がデロイトトーマツコンサルティングに委託しLCA調査(*2)を実施した。その結果、石油由来PET樹脂と比較し45%の二酸化炭素削減効果があることが示されている。
*2 デロイト トーマツ コンサルティング合同会社.「令和元年度 ケミカルリサイクルの二酸化炭素削減効果と脱炭素社会システムとしての評価検証委託業務 成果報告書」.令和元年度環境省委託業務. 2020,3.153p
ケミカルリサイクルの二酸化炭素削減効果と脱炭素社会システムとしての評価検証委託業務成果報告書 令和元年度|書誌詳細|国立国会図書館オンライン (ndl.go.jp)
これをもとに同社工場において採用している東京電力(*3)の電源構成を加味すると47%のCO2削減効果となる。
*3 https://www.tepco.co.jp/ep/power_supply/2019.html

私たちの技術では、石油由来のポリエステル樹脂と比べて、製造時に排出するCO2を半分近く(ペットボトル用樹脂では47%、ポリエステル繊維用の樹脂では49%)となることも長所です。地下資源と同等レベルの品質にしながら、どれだけCO2排出を減らしていけるのかが大事だと考えています。

ペットボトルリサイクル技術(BRING Technology™️)の概要

技術の仕組みですが、ペットボトルであれば、粉砕されてフレークと言われる状態のペットボトルをまず解重合と言う工程で分子レベルまで分解し、次に不純物を取り除いていきます。そしてBHETと言うPETになる前の中間体を作って抽出し、このBHETから再度ペットボトル作るためのPET樹脂を製造します。
化学的にアプローチして不純物を取りきるため、石油由来と同等の品質を保つことができます。

リサイクルの原料は使用済ペットボトルですが、瓶や缶などペットボトル以外のものも混合して回収されたペットボトルの場合、マテリアルリサイクルでは一般的にまたペットボトルへのリサイクルは難しいとされていますが、当社のケミカルリサイクルだと不純物を除去できるため、問題なくペットボトルへのリサイクルが可能です。これにより回収する自治体などの分別の負担を減らすこともできます。

また、ポリエステル100%繊維の衣類についても、ほぼ同様の技術でリサイクルを行なっています。製造した再生樹脂は自社製品で使用するだけではなく、他企業にも提供しています。 2022年秋冬シーズンには世界的なアウトドアブランドでも、この再生樹脂を採用していただきました。

現在市場にはどのくらいリサイクル資源を製造しているのでしょうか?

JEPLANグループが運営する川崎工場(提供:株式会社JEPLAN)

一昨年2021年に、ペットボトルのケミカルリサイクルとしてはおそらく世界最大の約2.2万トン/年(500mlペットボトル換算で年間約10億本)の再生樹脂を製造する量産プラントを再稼働させました。
製造した樹脂は飲料メーカー等に購入いただいています。再生樹脂は石油由来のものとほぼ同様の品質で、FDA(アメリカ食品医薬品局)などの認証もとっており、安心して活用いただいています。

リサイクル部分ばかりお聞きしましたが、回収部分についてもお聞きしたいです。
ペットボトルや衣服の回収にあたっての取り組み内容を聞かせてください。
自治体さんは、どのようにリサイクルに関わるのでしょうか。

回収率、94%。再生率、86%。 日本はペットボトルのリサイクル先進国と言われています。 しかし新しくつくられるペットボトルのうち、 使用済みペットボトルから再生されるのは約15%。 残りは新たな石油資源が消費されている事実を多くの人は知りません。

また、回収されたペットボトルは国内での使用のみならず、海外に輸出されているものもあります。

子どもたちに「回収したペットボトルは何にリサイクルされているか?」と質問すると、大半が「ペットボトル!」との返答がかえってきます。子どもたちが思い浮かべるような、何度も循環する持続可能なリサイクルを実現していきたいと自治体に呼びかけたところ、京都市が賛同してくれました。京都市は、「持続可能な循環社会の実現」に共感いただき、子どもたちのための社会作りのため、全国に先駆けて市の回収ペットボトルを当社グループでケミカルリサイクルすることを決定しました。京都市で回収した全てのペットボトルは、資源として循環するようになったのです。その後、他の自治体にも続々と支持を頂き、提携する自治体は1年で15自治体まで増えました。

「正しいを楽しいに」についてもお伺いしたいのですが、実際にどんなことをやられたのですか。

有名なハリウッド映画に登場する車型のタイムマシーン「デロリアン」を使ったPRを行いました。このデロリアンは劇中で、ゴミを燃料にして動く設定になっています。私たちの開発した「綿素材の古着からバイオエタノールを製造する」技術で、全国で回収した古着からバイオ燃料を製造しました。そのバイオ燃料を使って主人公たちが劇中で訪れた2015年10月21日の当日に、「ゴミ(古着)でデロリアンを走らせる」というイベントを行ないました。写真の通り大勢の人が参加し、イベントの様子は海外でも取り上げられ大きな反響となりました。

ユニバ―サル・スタジオの本社には、地上のゴミを資源に変えて循環型社会を作ることが資源争いによる戦争とテロを無くし、こども達の笑顔にもつながることだと提案し、賛同を得られた結果です。

デロリアンのイベント風景(提供:株式会社JEPLAN)

前にも述べた通り、リサイクルをするだけでは人は来ません。
このイベント後に“夢を叶えてくれてありがとう”とか、“素晴らしい技術ですね。これでCO2が減りますね”などたくさんの反響がありました。
楽しくリサイクルを体験して興味を持つことこそが、消費者の行動変容に必要なことだと思います。

開発国などでも同様の問題がありますが、海外でのプラント建設などについてはどうお考えですか

これまで述べてきたようにリサイクルは、さまざまなしくみが大事です。回収システムや大きな費用がかかるプラントの運営など多くのしくみ作りが必要なため、まずは環境が比較的そろっている日本、アメリカ、ヨーロッパなどの先進国が循環型社会の実績を示す必要があると考えています。

当社の海外展開としては、フランスに本部を置くエネルギー、輸送、環境の分野の主要な研究・研修機関であるIFP Energies nouvellesと、IFPのグループ企業Axensとの連携があります。
新しくプラントを建設すると、人材の教育や仕組みの構築など、最適化するまで大変な時間とコストがかかります。プロセス設計を行なっている同社と共に、既存の地下資源向けプラントに当社技術の仕組みを部分的に導入し、効率的に地上資源を生み出すプラントに切り替えるという取り組みの推進を開始しました。

同社と共同開発した技術のライセンス事業により、世界的にPETケミカルリサイクルのプラントを増やしていければと考えています。

既存の地下資源プラントが地上資源プラントに切り替えられるなんて! 
一気に普及が早まりそうですね。「プロセス設計」の思想も、ソフトウェア開発みたいで面白いですね。

これまでプラントを運用してきたなかで、どうやればリサイクルプロセスを既存のプラントに導入できるかに着眼してきました。
北九州響灘工場を建てる際に当時は与信がなかなか通らなかったため、多くのエンジニアリング会社から建設をお断りされました。
それならばと、自分たちで設計し、部材も購入し、ないものは作り、システムも自分たちで組みました。
しかし、工場が止まっては動き、止まっては動く中で多くの経験を得ました。
投資家さんには随分怒られましたが、その時の経験が今に生きていると思います。 もちろん人材も育ちましたし、外部に都度発注をしなくても対応できるため、スピードがずっと早くなり、イノベーションが促進されました。

日本で磨かれた技術、仕組みが海外でも利用されてきています。
日本でリサイクルが広がったきっかけは何だったでしょうか?

やはり、一つは容器包装リサイクル法の制定により、ペットボトル等のリサイクルの仕組みが作られたことだと思います。

制定から30年近く経ち、日本のペットボトル回収率は94%で、欧州の2倍、アメリカの3倍です。
日本では分別してリサイクルするという考えがとても浸透しており、ペットボトル以外のメガネや衣類などの回収についても比較的早く受け入れられるのだと思います。
また、資源がない国ということで、科学技術が積み上がっていたこともあると思います。

ありがとうございます。
日本で培われた技術や法制度、しくみが、国内や海外に広がって行っているのですね。

最後に読者の皆さんにメッセージをお願いします。

日本国内でペットボトルの完全循環を実現し、海外にその実績を見せることは大変インパクトがあると思います。「日本の技術と仕組みはすごい」と世界からいわれるような実績を海外に見せることで、世界は変わっていくと思います。

大屋 誠

大屋 誠

クラウドサービス開発や新規事業のR&Dを経て、現在はヤフーにてデータ コンサルティング事業に従事。 事業開発や国内外の技術評価の経験を活かし、アシタネプロジェクトに参画。技術やサービスのキュレーションや、人材教育支援のプログラム開発に従事。東京から福岡に生活拠点を移し、週末は養鶏や農業など楽しむ。