technology 核融合技術を使ってカーボンネガティブを実現する産業を目指す

京都フュージョニアリング株式会社

エネルギーや温室効果ガスの問題を耳にしない日はない時代、持続可能なエネルギーの確保は私たちにとって重要な課題となっています。

核融合炉は、重水素と三重水素という、通常の水素より中性子を多く持つ“同位体”の水素同士が融合した際に、ヘリウムと中性子の発生と共に、大きなエネルギーを生み出し、発電などに利用します。その仕組みから“太陽を人工的に作る技術”と言われる通り、重水素と三重水素1グラムから、石油約8トンのエネルギーと同等の大きなエネルギーになると言われています。

しかしながら、数あるエネルギー技術の中でも、少し遠い未来の技術というイメージをお持ちでないでしょうか。

実は、多くの研究や技術の革新から核融合炉を活用したエネルギー利用が現実味を帯びてきており、しかも、その中の一部の技術は日本がリードをしています。

京都フュージョニアリング株式会社(以下KF社)は、核融合に関する装置の研究開発から、設計、製造、装置の提供を手がけるスタートアップです。核融合技術において、日本のスタートアップが世界でどんな活躍をしているのか話を伺いました。

写真1 京都フュージョニアリングの皆様(提供:京都フュージョニアリング株式会社)

はじめまして。事業の設立背景について、聞かせていただけないでしょうか。

弊社は、2019年10月に取締役及び創業者である小西の持つ知見をベースに設立しました。共同創業者の小西は、京都大学の教授として長年核融合工学に携わり、ITERイーター)という人類初の核融合実験炉を実現する国際プロジェクトに置いて、“ブランケット”と言われる核融合により発生したエネルギーを熱エネルギーとして取り出すなどの部分の初代と2代目の部門長として活躍した人物です。
この知見をさらに社会に活かすため、同じく創業者でCEOである長尾と共に創業したのが京都フュージョニアリングです。

私たちは、究極的なエネルギーソリューション「核融合」によって地球の課題を解決し、人類に新たな未来をもたらすことをビジョンとしています。そして、核融合を産業として確立させ、日本ならではの技術優位性に立脚した産業競争力を身につけることをミッションとして活動しています。

核融合というと、まだ先の技術のようなイメージがあるのですが、現在の核融合技術の状況についてお伺いしても良いでしょうか。

現時点では、商業用核融合炉開発のために必要な技術の多くに、高いハードルがあり、研究開発段階にあり、未だ10年単位の時間を要します。

しかしながら、近年の研究開発の成果から、各分野における実用化の目処が見え始めてきました。あわせて、社会におけるエネルギーと環境問題への関心高まりから、従来は国や公共機関主導によるプロジェクトが中心でしたが、民間企業や官民協業による取り組みも増えてきています。

下図の緑色が米国での核融合に対する投資額ですが、民間投資額が急激に伸びてきていることがわかります。

図1 核融合技術に関する公共機関主導の予算と民間企業への投資状況(提供:APRA-E/米エネルギー省)

投資は、アメリカやイギリスの企業を中心に進んでおり、企業における開発も促進されてきている状況です。

御社も日本の核融合関連技術を持つ民間企業として、注目されている企業の一つというわけですね。核融合技術における御社の専門領域は何でしょうか。

専門領域は、核融合炉内のプラズマにエネルギーを加えるための装置であるジャイロトロン、及びプラズマのエネルギーを熱エネルギーとして取り出したり、燃料のリサイクルのためのブランケット、ダイバータ等のシステムになります。

図2 核融合炉全体とKF社技術の位置付け(京都フュージョニアリング株式会社資料をもとに編集部で追記)

過去の実験炉におけるジャイロトロンは、日本とロシアのいずれかが製造していることが多く、日本が競争力を持っている分野です。

核融合炉のエネルギーの入力部分と出力部分を専門とされているのですね。

はい、各国研究機関・及び近年投資を促進させている民間企業は、主にプラズマ発生の仕組みに注力している一方、わが社の技術はその前後のプロセスにあるため、官民かかわらず全ての核融合プレーヤーにとって協力(分担)して核融合の実用化に貢献できます。
プラズマ発生の方法によってはジャイロトロンを使わないものもあるが、ブランケットなどの熱取り出し以降のプロセスは全ての核融合炉で必要になるものであり、この領域においてわが社の製品・技術を各プレーヤーに供給していきたいです。

大規模な研究投資が必要な核融合の分野での民間企業である御社の役割は何なのでしょうか

商用の核融合炉が稼働する社会になるまでには、未だ多くの研究や実証が必要です。
公的機関は機材を開発することはできますが、製品として提供する立場にはありません。多くのプロジェクトが実証を実施するため、製品を安定的に提供しつつ、競争力を強化していく企業の存在が必要となります。

しかしながら、ジャイロトロンやブランケットなどを製造する上では極めて精密な工業技術が必要になります。私たちは核融合機器の設計から納品までを一貫して行うことで、要素技術を持った日本企業と協力して製品を作り上げていくことができます。
日本には、ITERに主要機材を供給するような大企業のみならず、核融合炉建設に必要な小さい部品を製造する技術を持つ中小企業など多くの会社が存在します。弊社が日本の民間企業であるからこそ、海外マーケットと国内を結ぶハブとなり、また核融合機器の設計を行うことで、国際競争を各社と一緒に勝ち抜いていきたいと考えています。

写真2 ジャイロトロンの全景(提供:京都フュージョニアリング株式会社)

御社の主力分野であるジャイロトロンの役割について、詳しく聞かせてください。

ジャイロトロンは核融合反応を起こすためにプラズマにエネルギーを加える装置です。
日本はQST、大学、産業界の長年の努力でジャイロトロンの開発に大きく貢献しており、世界でも高く評価されています。図は代表的な大電力ジャイロトロンの例ですが、全長が約3m、重さが800kgある電子真空管で、電子ビームのエネルギーを電波のエネルギーに変換します。現在の製品の出力は1MW(メガワット)です。強力な電界をかけることで取り出した電子ビームを、共振器と呼ばれる部分で電子のらせん運動のエネルギーを電波に変換します。

なぜ電波のエネルギーに変換が必要なのですか?

プラズマはドーナツ状の磁場で閉じ込めています。なぜ閉じ込めることができるかというと、プラズマはイオンと電子で構成されており、プラスとマイナスの電荷を持っているためです。このプラズマは一定の周波数で振動しており、同じ周波数の電波を当てることで共鳴が発生しプラズマにエネルギーを吸収させることができるのです。その他にもエネルギーを加える方法はありますが、現在のジャイロトロンによる方法が最も効率的かつ制御可能なエネルギーの共有方法と評価されています。

なるほど! 電子レンジで食べ物が温まる原理と近いですね。しかも、ただエネルギーを加えるだけでなく、エネルギーの加え方を制御しているということでしょうか。

はい、電波エネルギーはミラーで進路を制御しており、プラズマの共鳴する部分に照射されるように制御をしています。同じ場所だけ照射すれば、プラズマが不安定になるために、以下に安定的にエネルギーを加えるかは、ITERをはじめ、日本のプロジェクトであるJT-60などでも課題になっています。実験装置で実績を積みながら、最終的には商業炉(実用化段階の核融合炉)につなげていくことになります。

現在のところ、エネルギーの変換効率はどのくらいなのでしょうか。効率を上げるためにどのような対応をされているのでしょうか。

写真3 ジャイロトロンの人工ダイヤモンド窓

様々な工夫がありますが、その中の一つとして、真空管(真空の部分)から外部に電波エネルギーを伝える窓に人工ダイヤモンドの窓を使っています。ダイヤモンドは、従来型のサファイアに比べて熱伝導が非常に高いため、照射された場所から熱が逃げやすいため、高いエネルギーの照射においても安定的な性能を発揮します。

これを4台採用した日本の核融合実験炉であるJT-60Uでは、電子の温度として3億度まで温度を上げることができました

現在エネルギーの変換効率が50-60%です。残ったエネルギーは熱に変わって無駄にしていることになるので、エネルギーの出力の向上と並行して、効率も高めていきます。あわせて現在のITERのプロジェクトでは、数十分程度の連続稼働で良いのですが、実用化に際して、長期間の連続稼働、低価格化なども重要な要件になります。

実験から実用に向けてのステップにまさに差し掛かっていますね! 現在までの御社のジャイロトロンの導入実績について教えてください。

海外の主力なプロジェクトや欧米企業などからお話をいただいています。公開できる範囲では、イギリスの公的研究機関であるUKAEAの実験炉にて弊社のジャイロトロンが採用されました。

写真5 IVEC2022におけるKF社 表彰の様子(右から2番目が坂本氏)

また、ジャイロトロンの開発の中心であり弊社執行役員の坂本は、著名な国際会議であるIVEC(IEEE International Vacuum Electronics conference)において、ジャイロトロンの技術革新についての功績が認められ、2022年の国際会議で表彰も受けています。

ちなみにジャイロトロンは、核融合発電以外でも用途があるのでしょうか?

米国の会社が深層の掘削にジャイロトロンを用いる事業を進めています。その他、物質研究(ジャイロトロンから出力される電磁波を物質に照射することで、各種汚染物質・水分などの物質特定に用いる)、医療技術への応用(電磁波を細管で伝送して、体内の幹部を局所的に照射する)などが検討されています。ジャイロトロン技術は比較的新しく、かつ、電磁波という汎用技術を使っているため、多くの活用が広がっていくかと思います。

一部分に強いエネルギーを照射できるため、活用範囲が広いですね。今後、想定外の用途でお声がかかることもありそうですね!最後に読者へのメッセージをお願いいたします。

私たちは核融合技術だけに終始せず、社会にカーボンネガティブを実現できる核融合産業を日本中心に作りたいと考えています。

日本には、核融合の技術において一線で活用している技術があり、ITERにおいても重要な部分に多くの日本企業が製品を納品しています。この状況を活かして、世界に乗り遅れず、技術から産業を生み出せるよう、努めていきたいです。
核融合は未だ開発要素が強い分野であるので、官民問わず多くの核融合プレーヤーと協力の上研究開発を進めていきます。ミッションの通り、自社の利益だけでなく産業全体の発展・成長を目標としているので、その一助となれればと思います。

また、核融合産業の成功には、人材育成が不可欠です。基礎研究から実用化のフェーズに入る中で、研究者の活躍範囲も広がり、今まで以上にやりがいを感じられる時期が来ると思います。また、研究機関だけでなく弊社のようなベンチャー企業も登場したことで、研究者の活躍の場が広くなってきました。核融合技術を志す人々が、弊社の優れた研究者と仕事を共にすることで、優れた人材の育成と活躍ができる場を作っていきたいと思っています。

最後に、研究開発だけでなくビジネスとしても規模を拡大していく予定ですので、会社として協業のチャンスがある方、もしくは弊社で働くことに興味を持って下さる方とは、是非お話をさせて頂きたいと思います。

みなさん、今日はどうもありがとうございました!

大屋 誠

大屋 誠

クラウドサービス開発や新規事業のR&Dを経て、現在はヤフーにてデータ コンサルティング事業に従事。 事業開発や国内外の技術評価の経験を活かし、アシタネプロジェクトに参画。技術やサービスのキュレーションや、人材教育支援のプログラム開発に従事。東京から福岡に生活拠点を移し、週末は養鶏や農業など楽しむ。