technology 豊富な地熱エネルギー活用に技術と人づくりから取り組む

町おこしエネルギー株式会社

日本は火山帯に位置し古くからその恩恵を受けてきた歴史があります。そんな中、日本の地熱発電の歴史も長く、大正時代より実験発電が行われていました。しかしながら、現在の日本における地熱発電の総発電量は、国内需要の約0.2%だそうです。

いったい何が課題で利用が進まないのか。その課題解決に取り組み、日本が豊富にもつ地熱資源を活用した地域活性に取り組む、株式会社 町おこしエネルギー 代表取締役 社長の沼田昭二さんにお話を伺いました。

沼田社長 近影(画像提供:株式会社 町おこしエネルギー)

起業の背景について

大屋 “業務スーパー”で知られる神戸物産の創業者である沼田さんが、この事業を起こされるに至った背景について教えてください。

沼田 50代、60代で経験した2度の大病を契機に、今までの成功は、多くの方の理解協力の元で実現したことであることを改めて感じ、これからやる べきことを考えました。振り返るとアラブの春以降、世界的にも不安定さが増しおり、日本の置かれている立場も微妙になっていると思います。特に食料やエネルギーなど命に関わる資源の自給率が低いことは大きな問題になると考え、地域が分散して食料やエネルギーの自給を高めつつ、土地土地にあった産業を育成していく仕組みを作っていくため、神戸物産の事業を長男に継承し、町おこしエネルギーの事業を立ち上げました。

地熱発電事業について

大屋 そんな中、地熱発電を事業に選んだ理由は何でしょうか。

沼田 町おこしエネルギーでは、太陽光発電と地熱発電の事業を行っています。日本は資源がない国ですが、地熱資源量は世界3位です。しかしながら、実発電量は10位という状態です。ポテンシャルのない領域はやりようがないですが、この可能性を活かすことができるのではと考えました。

大屋 とはいえ、地熱発電事業を行っている企業は複数ありますが、特長はどこにありますか。

沼田 前職の業務スーパーは、流通・小売業という認識を持たれがちですが、同時にメーカーでもあります。実際、世界850以上の工場にオンリー1の商品開発のため、技術やノウハウを指導することで、独創性の高い製品力を特長にしています。この物づくりの知見を地熱発電事業でも活かしています。

大屋 それは意外でした! 実際にどのような取り組みをされているのでしょうか。

沼田 日本は山がちで道路も狭いです。そのため、地熱エネルギーの開発に必要な調査や工事に困難が伴います。私たちの理解では、1kmの試験掘削(鉱床や地質の調査のために試験的に掘削すること)を櫓なしで実施できる重機を持っているのは私たちだけです。櫓を立てるのは、大変な作業で、多くの資材の輸送や組み立ての場所、人が必要になります。私たちは、2tトラックが自走できるくらいの道路があれば、キャタピラで自走し試験掘削ができる重機を開発しました。2023年の春には、性能向上も予定しています。

自走式掘削機 (画像提供:株式会社 町おこしエネルギー)

大屋 日本の事情に合わせた機材を開発することで、調査のコストや時間を圧縮できたということですね! 他にも特長はありますか?

沼田 熊本県小国町の発電所では、これまでの10倍の能力の5MW以上の発電容量に耐える汽水分離器(蒸気の乾燥度を高めるために、蒸気から水分を分離、除去する装置)を自社開発しました。

沼田 技術で解決すべき課題は、周りの協力を得ながら作って解決をすることは、業務スーパー時代から続けています。

地熱発電で解決すべき課題

大屋 世界3位の埋蔵エネルギーがありながら、地熱発電が普及しない理由は何ですか?

沼田 日本の中規模以上の地熱発電所は、調査から竣工までに平均約20年ほどかかり、費用も数十億から数百億かかっています。これでは、民間企業では経営者が何代か変わってしまうほどの期間となり、リスクを取ることが難しくなります。そのため、複数の企業が共同して行うのが現状です。

大屋 20年の事業となると、なかなか株主に説明することも難しいですね。

沼田 しかし、これが5年でできれば、企業の投資は格段にやりやすくなります。地域の状況に合わせたパッケージを複数用意して、それを選んでもらうような発想です。すでに稼働中の小国町の例では、発電容量5MW以下のパッケージで、設計は2年弱、全体では5年以内で実現します。2回目以降は設計部分も短縮できます。

煙が出ている蒸気

低い精度で自動的に生成された説明
小国町での噴気の様子 (画像提供:株式会社 町おこしエネルギー)

沼田 地熱発電の課題はその他にもありますが、それらを一つ一つ解決することが重要です。現在、国内では5年に一つ程度の地熱発電所しか稼働していませんが、当社は3年以内に毎年1つの発電所を作ることを目標にしています。そのためには必要なものは作るしかないのです。

人材活用と育成

大屋 技術開発にあたっての知識や人材はどのようにして得ているのでしょうか。

沼田 地熱エネルギー開発において必要になる様々な技術や知識をお持ちの先生がたにご協力いただいています。多くの方が60代後半から80代の方になります。

大屋  年齢層がずいぶん高めですね!

沼田  日本の地熱開発や研究が盛んだった時に活躍された経験豊富な先生が中心です。その後、1990年代に日本の地熱エネルギー開発は下火になったため、若手の人材が少ない状況です。

大屋 日本の技術が失われようとしていたということでしょうか。

沼田 はい、そのため技術継承の取り組みとして、掘削技術専門学校という学校を創設しました。掘削の第一線で活躍されたプロからの講義が受けられるだけでなく、国内の関連メーカーの多くからロータリーやスピンドルなどの寄付をいただき、本物の掘削機や最新のシミュレーターで学ぶことができる日本唯一の学校になっています。

掘削技術専門学校 (画像提供:株式会社 町おこしエネルギー)
シミュレーターの様子 (画像提供:株式会社 町おこしエネルギー)

地域活用の状況

大屋 これらの技術は、実際に地域でどのように活用されているのでしょうか?

沼田 当社の事業は発電だけでなく地域活性が目的です。そのため発電だけでなく、熱水の利用なども行い、高付加価値の水産物や養殖や農作物の栽培を進めています。

大屋 再生可能なエネルギーの自給だけでなく、地域の価値開発も同時に行なっているのですね。

発電所の様子 (画像提供:株式会社 町おこしエネルギー)

大屋 地熱開発は、現在どのくらいの数が進んでいるのでしょうか。

沼田 試験掘削許可は、現在30ヶ所以上から許可をいただき、お待ちいただいている状態です。

フランチャイズシステムによる地熱業界の底上げ

大屋 事業にフランチャイズの仕組みを導入されているとお聞きしました。これはどういう狙いでしょうか?

沼田 当社だけが地熱事業を進めても、日本に必要なエネルギーの自給や地域活性は十分に進みません。業界全体の底上げにフランチャイズの仕組みを活用しています。

大屋 それはどういうことでしょうか?

沼田 現在、クリーンなエネルギーについての企業の理解は進んできていますが、20年かかるのでは投資がしにくい状況でした。しかし、お話しした通り、開発コストや工期の短縮、地熱開発のパッケージ化、そして人材育成による掘削のエンジニアが増えてくることで、適切な投資さえあれば、日本全国で地熱開発と地域活性を進めることができるようになってきています。

試験掘削の様子(画像提供:株式会社 町おこしエネルギー)

沼田 それでもリスクが高い1kmの試験掘削について当社が責任をもって請け負い、その後の蒸気利用を共同で行うことで、地熱利用にご理解がある企業や地域が必ず増えると思うのです。日本が唯一誇れる地下資源を活用する社会にするには、関係者の理解が重要です。そのため、業界全体を底上げすることを優先するためフランチャイズシステムを採用しています。

大屋 企業にとっては、地熱を利用する部分から参入が可能というわけですね。

沼田 地熱発電は本当に大丈夫なのか?と不安をもっている人がまだまだ多い状況です。フランチャイズにより、私たちより優れたアイデアを持つ方にも参入いただきやすくすることで、良い事例や取り組みを共有させていただくことで業界が底上げされていきます。

若い人が未来に良いイメージを持てる社会へ

大屋 最後に読者にメッセージをお願いします。

沼田 資源が豊富でない日本は世界に誇れる技術を磨いていくべきです。そのためには、将来のためになることを信じて、勇気をもち、実践しないと次世代にバトンタッチできません。地熱開発でお世話になっている先生も、“しんどい”とこぼしても、最後は頭が下がるくらいの活躍をされています。まだまだ日本にはそんな方々いらっしゃいます。

若い人が将来へ良いイメージを持てずにいるように感じています。今の日本に最も必要なのは人材育成だと思います。若い人も年配の人も取り込み、希望の持てる社会を作っていきたいと思います。

大屋 ありがとうございました!

大屋 誠

大屋 誠

クラウドサービス開発や新規事業のR&Dを経て、現在はヤフーにてデータ コンサルティング事業に従事。 事業開発や国内外の技術評価の経験を活かし、アシタネプロジェクトに参画。技術やサービスのキュレーションや、人材教育支援のプログラム開発に従事。東京から福岡に生活拠点を移し、週末は養鶏や農業など楽しむ。