株式会社kitafuku
●地ビールからクラフトビールへ
現在、クラフトビールが各地で盛り上がりを見せている。
1994年の酒税法改正で、ビール製造免許取得に必要な年間製造量が2000キロリットルから 60キロリットルに引き下げられ、地方を中心に小規模なビールメーカーが立ち上がり、「地ビール」ブームが起こった。
まだ醸造技術が未熟だったこともあり、品質に比べて割高感が出てしまい、だんだんとブームは下火になってしまった。
しかし、高くてまずいイメージを払拭するためにコツコツと醸造技術の向上に取り組んできたメーカーの努力もあり、「クラフト(工芸品)ビール」としてその人気は定着してきている。
●日本のビール発祥の地、横浜
1860年代、日本初のビール醸造所がアメリカ人の手により横浜に誕生する。
主に居留外国人向けに製造販売がスタートした。
やがて、日本人にもその味が広まり、定着していく。
1888年にはキリンビールの横浜工場も作られるようになった。
現在では、複数のクラフトビール醸造所が集まっている。
●醸造過程のモルト粕の廃棄物問題
そんな横浜ではクラフトビールの醸造が盛んに行われているが、同時に製造過程で大量に生まれるモルト粕の廃棄が問題になっていた。
通常、クラフトビールは麦芽(モルト)、ホップ、酵母、水から作られるが、製造する際に麦汁を絞った粕がモルト粕で、これが廃棄物扱いとなる。
●株式会社kitafukuの取り組み
世界的にSDGsが注目を浴びるようになってきているが、なかなか具体的な取り組みというのはまだ少ない。
そんな中、横浜市でもSDGs認証制度“Y-SDGs” が立ち上がり、横浜の事業者でもSDGsへの取り組みを模索するようになっていた。
IoTデバイス製作、コミュニティ運営など複数の事業を手がける株式会社kitafuku(以下、kitafuku)の代表である松坂氏もその一人だった。
松坂氏は、奈良県の株式会社ペーパル(以下、ペーパル)という製紙会社に勤務している友人から、いろいろな材料を紙に混ぜ込む研究のことを聞いており、「何か一緒にできたら」という話はしていた。
その中で、横浜市から食品ロスが多いことが課題として挙げられており、それもヒントの一つとなり、ペーパルと一緒に廃棄となる食材から紙を作ろうということになった。
廃棄食材をいろいろとあたっていった結果、横浜市はビール工場なども多く、製造過程でモルト粕が廃棄されていることを知った。
クラフトビール醸造メーカーも複数あるが、その中でも20年以上と歴史が長く、生産者や飲食店、大学との連携など地域密着型で活動をしている株式会社横浜ビール(以下、横浜ビール)に声をかけたところ快諾され、企画が進んでいくことになった。
実際の製紙にあたってはペーパルが前述の研究から再生紙製造の技術を持っていたため、パートナーシップで研究開発を始めることができた。
再生紙製造と一口に言っても、紙に異素材を混ぜ込むとなると、やはり課題も多かったそうだ。
ペーパルは125年の歴史と技術を持っているため、一つ一つ課題をクリアしていき、発売にまで漕ぎ着けることができた。
●出来上がったクラフトビールペーパー
クラフトビールペーパーは、ところどころにモルト粕が見受けられ、モルトの存在を確かに感じられる味わい深い仕上がりとなっている。
色もビールに近い色味だ。
破れにくく、コースターなどにも活用しやすい紙質だ。
活版印刷のような風合いが出せるので、名刺やショップカードにも向いている。
食品の製造過程では様々な廃棄物が出てしまう。
それの再利用には、燃料、飼料、肥料など、いろいろな方法が考えられている。
ペーパーレス化も進められているが、やはり紙には紙の役割であったり、紙ならではの良さもあったりする。
自分が使う紙、使われている紙が何からできているかを意識するきっかけの一つにもなり、少しでも環境負荷が低く、無駄のない活用を意識することができる。
クラフトビールペーパーは、そういうストーリーを持たせられる点もあり、今後も広がりに注目したい。
小野 誠(環境コンサルタント)
大手通信販売会社を経て、インターネットビジネスのベンチャー企業の立ち上げなどに携わる。息子が生まれたことにより次世代に残す地球環境への意識が高まり、微生物活性材「バクチャー」にジョインした。日本及び東南アジアの水質浄化、土壌改善などの経験をもとに環境コンサルタントとしてアシタネプロジェクトに参画。