technology 株式会社MIZUHA 大気から安全な飲料水をつくる空水機

UNICEFの2017年の報告書によると世界では、21億人が安全な水を入手できない状況である。
株式会社MIZUHAは、大気中の水分から安心・安全な飲料水をつくり出す技術で、水へアクセスできる人を増やす取り組みを進めている。
同社の宇佐美氏に開発の経緯や技術の内容について聞いた。

なぜ水に関わる事業をおこされたのでしょうか。

もともとアフリカ等で子どもたちが水不足と非衛生な水を飲んで命を落としている状況を知り、社会貢献として事業を立ち上げたことがきっかけです。
UNICEFとWHOによると現在、世界で22億人が安全に管理された飲み水を使用できていません、また汚れた水を使うことで年間30万人の乳幼児が命を落としています。
途上国の人々に安心・安全な水を提供するために、空水機のアイデアを思い立ち、2016年に事業を開始、3年間かけて技術開発をし、2年前から製品の展開を始めています。

写真1  宇佐美氏 近影
図1.飲み水のアクセス状況  *出典:WHO/UNICEF JMP (2019) “Progress on household drinking water, sanitation and hygiene 2000-2017. Special focus on inequalities”,

空水機とはどんな製品なのでしょうか。

空気中の水分を結露させて水を生成し、殺菌した水を常に提供できる装置で2人で持ち運びができる大きさです。

空水機の仕組みは、大きく3つに分かれており、①空気中の水分を結露させて水を生成、②生成された水を銀イオンにより殺菌、③カーボンフィルターで水を弱アルカリ性に調整等 水質の調整をしています。
生成された水を飲むことができる状態にすることが最も難しい部分で、3年間の試行錯誤の末、銀イオンの発生装置を開発、特許を取得し製品化に至っています。

写真2. 空水機  資料提供: 株式会社MIZUHA
図2. 空水機の仕組み 資料提供: 株式会社MIZUHA

浄水化には、RO膜やイオン交換など色々な方法があると思いますが、銀イオンを利用する利点は何でしょうか。

空気中から水分を得るため、空気中の細かいゴミの除去と雑菌の殺菌についての対応にフォーカスしています。
銀イオンは経験則として、菌に結びつけることでの殺菌効果があるということは、以前より言われていましたが、アリゾナ大学の研究で殺菌効果が認められています。
あわせて、国内でも厚生労働省で安全な添加物として認められています。
銀イオンによる殺菌では、水分に銀イオンが存在する限りは殺菌能力が維持されるため、長期間の保存の能力があることが特徴です。

図3.  銀イオンによる殺菌効果 資料提供: 株式会社MIZUHA

他技術について厳密な比較はしていませんが、銀イオンの発生装置の技術は株式会社 MIZUHA独自のものです。
これまでも大型浴場のお湯の殺菌などにもこの技術は使われております。

2020年度には文部科学省の補助事業である東京大学のGlobal Tech EDGE-NEXTにも参加しています。

空気から水分を取得する部分はどのような仕組みなのでしょうか。

熱交換器の仕組みは、エアコンの除湿機能を想像してもらえば良いと思います。
本空水機では飲料水にするため、空気清浄機などに導入されているPM2.5を除去できるフィルターを導入し、空気をきれいにして取り込んでいます。
また、エパコレーターという水分が溜まる部分は、抗菌加工をしています。

メンテナンスなどは簡単なのでしょうか?

フィルターは1年に1回の交換、銀イオン発生機は3年に1回必要です。
フィルターは誰でも交換可能で、銀イオン発生機は当社の代理店で対応をします。
最終的には、導入した国で全てのメンテナンスができるようにしていきたいと考えています。

現在の空水機の導入状況について教えてください。

カンボジアの学校(CIESF Leaders Academy)に空水機を導入しています。
こちらは上水道がなく、土壌汚染のために井戸も使えない状態で、寄付による運営している学校としては子どもや職員に安全な飲料水を提供する費用が問題になっていましたが、安心して飲める水が調達できることで満足いただきました。

カンボジアでは、開発途上国の医療提供で活動している団体であるジャパンハートこども医療センターにも導入されています。
飲料水が貴重なため、子どもたちやご家族が水を求めて並ぶ光景も見られました。

国内では、離島など飲料水の確保に困難な民宿などで導入されています。 台風などで飲料水の輸送ができないケースを考慮しており、発電機を使って駆動するようにして停電にも備えて利用されています。

写真3. カンボジアでの空水機利用の様子1
資料提供: 株式会社MIZUHA
写真4. カンボジアでの空水機利用の様子2
資料提供: 株式会社MIZUHA

今後の展開について教えてください。

企業であるため存続のために最低限の利益をあげる必要はありますが、社会貢献を目的に作った企業なので、困った方に役にたてることを大事にして行きたいと思います。私たちは一人では生きていけず、私はたまたま従来からの事業で収益が出ており、MIZUHAの事業は社会還元のために進めて行きたいです。

まず製品については、現在の造水能力は約20-25人の飲用水を提供できる状況です。前述の通り開発途上国では生活用水も含めて水が足りておらず、さらなる需要に応えるために1t/日の製品を開発中です。

海外の対応については、湿気が多く、水の調達に一定の支出ができるアジア地域から対応を進めています。
アフリカ地域を諦めているわけではないですが、まずは市場ニーズと合致度が高いエリアから進めています。
まずは学校、企業、ホテル、離島などで利用が進んでいく想定で、利用増加にともない、コストも下げていけると考えています。

また、災害の領域で新しい取り組みを考えています。 NGO法人のAMDAの活動に賛同し、災害地や医療現場での空水機の活用ができるための連携を始めています。2019年には「AMDA南海トラフ災害対応プラットフォーム調整会議」に参加、当社は災害医療機動チームに登録しています。
あわせて空水機を活用した、災害対策用の車をクラウドファンディングで資金調達し開発できないか検討中です。
災害時に迅速な支援が提供できるよう、トラックに空水機と発電機、蓄電池、ソーラーパネル、Wi-Fi提供環境を搭載することで、災害時の活動により貢献できると考えています。

大屋 誠

大屋 誠

クラウドサービス開発や新規事業のR&Dを経て、現在はヤフーにてデータ コンサルティング事業に従事。 事業開発や国内外の技術評価の経験を活かし、アシタネプロジェクトに参画。技術やサービスのキュレーションや、人材教育支援のプログラム開発に従事。東京から福岡に生活拠点を移し、週末は養鶏や農業など楽しむ。