Technologyデジタル電力革命への挑戦
家庭の電力の需要と供給をコントロールできれば、エネルギーの無駄を減らすことや電気代のカット、発電量の抑制に繋げることができるかもしれない。
そんな電力革命に挑戦している企業が、Nature株式会社(以下 同社)だ。
今回は、その挑戦のために開発されたプロダクトを中心に今後の可能性を紹介する。
どうしてNatureなのか
同社代表の塩出晴海氏は、こう述べている。
「今の世の中といえば、人間の都合で経済成長の名の下に貴重な大自然を荒らしてきた。
その流れは、産業革命以降、拍車がかかり、もう止められないところまできている。
これまでの我々のビジネスの多くは、生産と消費の拡大の上に成り立っていた。
しかし、ようやくその流れを変えるビジネスが現れてきた。シェアリングエコノミーだ。
UberやAirbnbのようなビジネスの本質は、これまでのように消費を拡大させるのではなく、インターネットやスマートフォンを駆使したテクノロジーで既存のリソースを有効活用することにある。
これまで軽視されてきた自然との共生をテクノロジーの力で採算性の取れるビジネスとして実現したいという思いを込めて、自分で起業するときの会社の名前はNatureにしたいと思っていた。
そして今、Natureではそのミッションを実現する第一歩として、インターネットとセンサー技術を活用し、分散型で再生可能な電源を普及させ、エネルギーを自給自足出来る未来作りを目指している。」
塩出氏が自然の重要性に気がついたのは、スウェーデン王立工科大学を卒業後、父親とヨットで3か月間、1,000マイルのセーリング旅行に出た時のこと。
その時、波や美しい自然に囲まれ、吹いた風に呼応するかのようにヨットが進み、人間が作ったものと自然の完璧な調和を目の当たりにした。
このひと時は、人間は遺伝子レベルで自然と共生するように創られているのだと気づかされると共に、自然とより調和した社会を創りたいという想いに火をつけてくれたそうだ。
現代の私達は、電力なしには生活できなくなってしまっている。
火力発電は化石燃料での温室効果ガスの問題がつきまとい、原子力発電はより様々な問題がある。
発電するにはどうしても環境に負荷を与えてしまうが、クリーンエネルギーにも効率など課題があり、十分に普及していくにはまだまだ時間がかかる状況にある。
そんな中、一人一人が「節電」を意識していくことは非常に重要なことだが、実際のところ、自分がどれだけ電力を使用しているかを知るには、電力会社からの請求を見るしかなかった。
同社のプロダクトは、そんな状況に一石を投じ、リアルタイムで電力使用量を把握したり、遠隔でも家電をコントロールすることを可能にした。
これにより、巨大なエネルギー産業を需要側から制御することができるのだ。
Nature株式会社のプロダクト
電力革命に挑む同社のシンボリックなプロダクトとして、スマートホームを実現するスマートリモコンの「Nature Remo」、コンセントに挿すだけで手軽にエネルギーマネジメントを可能にする次世代型HEMS「Nature Remo E」などがラインナップされ、ソフトウェアのバージョンアップや新商品の開発も日々行われている。
「Nature Remo」は、家電のリモコンをスマートフォンから操作できる進化したリモコンだ。
赤外線方式のリモコンを備えた家電であれば、メーカーや型番・年式などに関係なく使用接続が可能。
スマートフォンで外出先から家電の操作ができるほか、スマートスピーカーと連携することで、既存の家電を声で操作することができるようにもなる。
例えば、帰宅前にエアコンをつけておき、自宅を快適な室温にしておくことや、エアコンを消し忘れても外出先から消すことができる。
電気は需要と供給を常に合わせる必要があり、そのために電力会社が頻繁に供給側で調整している。
そのために、1年で数十時間しか稼働しない発電所があることも。
しかし、電力の需要側をうまく調整できれば、その発電所を代替できる可能性がある。
そこで注目されたのが、家庭消費電力のピーク需要の半分以上を占めるエアコンをインターネットにつなぐ「Nature Remo」である。
「Nature Remo E」が実現することは、エネルギーマネジメント(エネマネ)である。エネマネとは、電気の使用量をモニタリングし、最適化することである。エネマネをうまく行うことができれば、省エネで電気代を抑えることができ、限られた地球資源の効率利用につながる。Nature Remo Eは、これまで敷居の高かった家庭のエネマネを、誰でも手軽に使えるようにしている。スマホアプリで家全体の電力使用量を数分単位で確認することができたり、蓄電池や太陽光発電システムと連携でき、家庭のエネマネを通じて電力の有効活用を目指している製品だ。
また、2つのプロダクトを連携させることで、電力消費量に合わせた家電の自動制御が可能となる。例えば、電力消費量が2000KWを超えたら自動でエアコンの温度を上げる・下げるなど、省エネに配慮した家電制御を実現している。
電力業界に革命は起こり得るのか
電力の業界は、国の経済とともに成長し、国家と強く結びついている会社が多い。
その電力業界を大きく変える革命は起こせるのか。
電力業界を大きく激変させ、再生可能エネルギーの普及を後押しできる可能性があるのは、電力の個人間売買だ。
しかし、その電力の個人間売買にも課題がある。
課題 1) 太陽光発電の普及
太陽光発電は、今までコストが高く、補助金なしでは成立しないと考えられていた。
しかし、太陽光の価格はここ10年で約10分の1まで下がっている。
さらには最近では、屋根がしモデルというビジネスモデルが誕生し、太陽光を買うのではなく、自宅の屋根を貸し出すことで太陽光を設置し、その太陽光から発電される電気を市場価格より安価な価格で買い取るというモデルも出てきている。
つまり、これであれば屋根を貸すだけで、初期コストがゼロで太陽光を導入できるばかりか電気代の節約にもなる。
課題 2) 蓄電池の普及
昨今の災害で停電問題もあり、多くの太陽光発電システムの保有者が蓄電池を導入し始めている。
しかし、蓄電池のコストはまだまだ高い。
この問題を劇的に解決する可能性があるのが、EV車の普及だ。
EV車は、それ自体は移動手段として購入されるので、電気的な限界費用はゼロと考えられる。
世界的に見てテスラの後押しもあり、EV車の普及はもはや間違いないグローバルでの流れだ。
課題 3) 個人売買のプラットフォーム
太陽光発電と蓄電池(EV)が普及した世界において、一般過程は単なる電気の消費者ではなく生産者の顔を持つようになる。世に言うプロシューマーだ。
そのプロシューマー同士をいかに繋いで電気の個人売買をさせるかと言うことになるのだが、それがまさにNatureで開発している「Nature Remo E」だ。
「Nature Remo E」は、ベンダーフリーで、スマートメーター、太陽光発電システム、蓄電池システムと連携し、電気のモニタリングと制御が可能になる。
この「Nature Remo E」を全ての太陽光システム、蓄電池のオーナーが使っていれば、どの家でいつどのくらい電気が足りないか、余っているかというデータを統合して管理できるし、プラットフォームとして電気の売買すらもそのプラットフォームで完遂することができるのだ。
課題 4) 託送料金の問題
ただ、電力の個人間売買の世界を実現するためには乗り越えないといけない大きな課題がある。
それが、電気の託送料金だ。
今の託送料金の仕組みは、電力会社が垂直統合されてきた時代に作られたもので、電力自由化が起こり、再生可能エネルギーが普及してきたことで電力の需要家側にも発電リソースが持たれている今の実態に全く合っていない。
現状の託送料金の制度の最大の問題は、福島から東京に送っても、東京都内にある隣の家から電気を送っても、同額の託送料金を支払う必要があることだ。
現在、託生料金に関する改革が行われているが、正直中途半端な内容になってしまっていて、発送電分離の議論と同じく、日本の電力業界のイノベーションを大きくな阻害要因になる。
しかし、その流れも徐々に変わりつつある。
Natureの競合となる会社
塩出氏は言う。競合は米国のTesla社だと。
なぜTesla社が同社の競合になるのか。
Tesla社は、地球の電力は再生可能エネルギーで全て賄うべきと考えており、そのために主力としている電気自動車だけでなく、蓄電池や太陽光パネルを開発している。
太陽光パネルを屋根の瓦にしたようなものを開発したり、電気自動車を普及させたりしている。
Nature社のミッションは「自然との共生をテクノロジーでドライブする」で、「インターネットとセンサー技術を活用して、分散型で再生可能な電源を普及させること」を目指しており、この共通点が1つの理由である。
もう1つの大きな理由が、ハードウェアから切り込んでるところである。
同社も最初はソフトウェアからのアプローチも検討したそうだが、ハードウェアから作らないと自由度を持ってサービスを作れないため、現在に至っている。
電気のCtoCは画期的な概念であり、需要と供給をコントロールすることで、無駄な発電を防ぎ、持続可能な未来への一助となる。
英語圏での海外展開も始まっており、電力革命における同社の展開から目が離せない。
小野 誠(環境コンサルタント)
大手通信販売会社を経て、インターネットビジネスのベンチャー企業の立ち上げなどに携わる。息子が生まれたことにより次世代に残す地球環境への意識が高まり、微生物活性材「バクチャー」にジョインした。日本及び東南アジアの水質浄化、土壌改善などの経験をもとに環境コンサルタントとしてアシタネプロジェクトに参画。