technology プラスチック輸出入問題と国内リサイクル

プラスチックの輸出入問題をご存知だろうか。私たちの日常生活で包装などから日々生み出されてしまうプラスチックのゴミ。分別してゴミを出しているから、国内で正しくリサイクルされていると思っている方が多いと思うが、実際は異なるのだ。
実は、日本は海外にゴミからできたプラ屑や再生原料のプラスチックを年間約150万トン前後も輸出している。これはプラスチックの輸出としては、世界第3位だ。リサイクルには諸々の手間がかかるため、人件費を捻出できないという理由で人件費の安い海外に輸出していたのだ。つまり、我々はずっと海外にプラスチックの処理を頼ってしまっていたのだ。

その主な輸出先は中国だったが、中国も自国の処理量が増大してきたことから、2018年にプラスチックゴミの輸入を禁止。そのしわ寄せは東南アジアやアフリカ諸国に行ってしまっている。日本だけでなく世界中からのプラスチックゴミが入っているアフリカでは、年間約10億トンとも言われている。

有害廃棄物の輸出入を規制するバーゼル条約で、プラスチックゴミが有害廃棄物のリストに入ったことにより、プラスチックゴミの輸出入のハードルは上がってきているが、減少を見せていた2018年・2019年に比べて、国内で処理しきれないという理由から2020年には再び輸出量が増えてしまっている。

そんな中、45年前からプラスチックの国内リサイクルに取り組み、輸出に関しても法令を遵守した適切な方法で行われるように取り組んできた会社がある。

株式会社パナ・ケミカル(代表取締役:犬飼 健太郎 氏)は、1976年に創業者犬飼重平氏が東京・杉並区郊外の駅に近い一角に、松下電工の販売するプラスチック材料全般を扱う代理店として、株式会社パナ・ケミカルを創業した。当時は日本中にオイルショックの風が吹き荒れ、仕入れるプラスチック原料もない中で、「どうしたら原料の不足をカバーできるのか」を考え続ける日々だったそうだ。

そんな中、重平氏は営業の帰りにたまたま通りかかった築地市場で、ある運命的な光景を目の当たりにする。それは市場から立ちのぼる黒煙だった。「リサイクル」という言葉もなかった時代、築地市場では日々大量に廃棄される発泡スチロールを燃やしていた。

築地市場は発泡スチロールの使用量が全国で最も多い場所だという。大量に廃棄され、燃やされていく発泡スチロール。一方で日本におけるプラスチック原料の不足は日々深刻さを増していた。重平氏は思案の末に、発泡スチロールを再生プラスチックに加工して、リサイクルするビジネスモデルを考案する。機械メーカーを説得して処理機第一号を開発したのだ。その結果、発泡スチロールを資源の再利用に適した樹脂塊(インゴッド化)にすることに成功。パナ・ケミカルは市場で処理したインゴッドを買取ることでプラスチック原料を調達し、築地市場関係者には廃棄物から再生資源を生むというビジネスモデルを提案したのだった。

「単に機械を売り込むための口実ではないのか、信用できる話なのか」市場関係者の反応はまだまだ冷ややかだった。
「再資源化したインゴッドは必ず買い取る」重平は市場責任者との間で誓約書を交わし、処理機の操作説明や再生資源化されたインゴッドの買取に毎日市場へ赴き、重平氏は市場関係者からの信頼を徐々に集めていった。そうして、ついに発泡スチロールの有価買取システム(J-EPS recycling)が誕生したのだ。

全国の中央卸売市場、地方市場に広がったこのリサイクリングシステムは、旺盛な海外需要も手伝い、拡大を続けた。気がつくとマーケットシェアは全国の8 0 %に及び、月間回収量は2 , 0 0 0トンから3 , 0 0 0トンへと順調に伸ばしていった。折しもビデオカセットテープが開発され、インゴッドがそのプラスチックケースの原料に採用された。リサイクル処理機の性能も大幅に向上し、機械販売も順調で、マスコミでも大きく取り上げられるようになった。

現在の同社では、資源プラスチックリサイクル事業が軌道に乗り、資源プラスチックとインゴッドを合わせて月間7, 0 0 0トンを扱う、日本最大級のプラスチックリサイクル会社となっている。

現在の取り組みとしては、資源プラという新しい定義づけなどを行い、プラスチックのリサイクル業界に新しいルールや価値観を導入し、適切な取引が行われるように業界を牽引している。海外への輸出も適切に処理された資源プラや再生原料のみとし、廃プラスチックの処理はできるだけ国内で行っていくことが望まれている。

小野 誠(環境コンサルタント)

小野 誠(環境コンサルタント)

大手通信販売会社を経て、インターネットビジネスのベンチャー企業の立ち上げなどに携わる。息子が生まれたことにより次世代に残す地球環境への意識が高まり、微生物活性材「バクチャー」にジョインした。日本及び東南アジアの水質浄化、土壌改善などの経験をもとに環境コンサルタントとしてアシタネプロジェクトに参画。