technology 衛星画像処理技術で国内と海外の異なる農業課題に向き合う サグリ株式会社

持続的な農業は、単に食料の確保の問題にとどまらず、各国の経済的な安定から温室効果ガスの抑制まで、多くの課題に関係しています。しかしながら、各国では農業の持続的な運営に多くの課題を有しています。

サグリ株式会社は、衛星から取得した地表データを解析する技術を有し、日本と海外の異なる農業問題の解決に取り組んでおり、代表取締役CEOの坪井氏にその話を聞いた。

写真1 坪井CEO近影(提供:サグリ株式会社)

こんにちは。
事業の設立背景について、聞かせていただけないでしょうか。

私たちは兵庫県の丹波市を本社とするスタートアップ企業で、衛星画像の解析技術をベースに、農家の経営発展と脱炭素問題の解決に取り組んでいます。インドにも子会社を持っており、日本向けサービスとインドやアフリカなど海外向けのサービスを同時に展開しています。

丹波市発のグローバル向けのベンチャーということですが、まずは国内向けのサービスについて、内容を教えてください。

日本の耕作放棄地は、この25年間(1990年から2015年)で倍増しており、面積は滋賀県の面積(42.3万ha)に相当するほどになっています。
日本では市町村に設置されている農業委員会が、農地法に基づく売買や貸借、遊休農地の調査や指導を行っていますが、農地を目視で確認し、紙の台帳や地図をもとに管理しているため、現況把握が効率的に実施できていない状況になっています。

図1 農業委員会における農地管理の課題 (提供:サグリ株式会社)

私達は、”ACTABA”というサービスで、人工衛星データの持つ、広域性(一度に広いエリアを把握できる)と回帰性(何度も時期をずらして同じ場所の調査ができる)特徴を使い、衛星データで事前に耕作状況を調査することで、調査すべき農地を絞り込めるようにしました。あわせて調査者は、タブレットを持って農地をパトロールすることで、結果の入力や管理の負担も大幅に削減しました。

図2 ACTABAの画面イメージ (提供:サグリ株式会社)

目視確認が減るのは大変喜ばれそうですね。実際、どのくらいの効率化が実現したのでしょうか?

岐阜県下呂市への内閣府のインタビューによると、目視確認な農地が45,000筆から15.000筆と1/3になり、これまで最低でも4日かかっていた調査が、1日半程度で終わるようになったそうです。
令和3年度には約40 の自治体に導入または実証実験の実施をいただいています。

図3 ACTABA 導入・実証実験実施自治体 (提供:サグリ株式会社)

このような実績の中で、農林水産省の定める要項では、農地確認は目視が推奨されていましたが、衛星やドローンのデータの活用も追記されるようになり、今後もっと多くの自治体に利用が広がる環境が整ってきています。

どのような技術が、ACTABAには使われているのですか?

一つ目に、AI画像認識による農地区画形成の自動化技術です。
農地の分筆や合筆を自動で行う特許国内で持っており、海外12カ国でも申請中です。これにより、農地の判別と農地毎の診断や管理が自動的に行うことができます。

写真2 区画認識後の農地画像(提供:サグリ株式会社)

二つ目に、衛星データから農地の状態を把握する技術です。ACTABAでは、耕作放棄地の判別をしていますが、土壌の特性の判断やどんな作付けが行われているかなど、多種多様な判別技術を開発しています。

衛星画像の特性を活かされていて、活用の幅がどんどん広がりそうですね。
国内ではその他にどのようなサービスを提供しているのでしょうか?

農地で何が作付けされているかを判定する技術を活用して、”デタバ”をリリースしました。全国の市町村地域再生協議会では、作付け内容による寄付金の審査などの関係でで、毎年、作付け調査を実施しており、膨大な時間と労力がかかっています。
山口県庁との連携による実証実験で、判定精度が8割以上となったため、全国で無償の実証実験を開始しました。(2022年6月現在)

図4  デタバで利用する作付け調査モデルの情報(提供:サグリ株式会社)

海外ではどのような事業を展開されているのでしょうか。
国内との違いもあれば、教えてください。

当社では、海外向け事業の歴史は長く、特にインドでの事業は創業当初から行なっています。
インドの農業従事者は2億6300万人(2018年)で、日本の130.2万人(令和3年 農業労働力に関する統計)と比べても遥かに多く、当然農地面積も大きいです。一方で、日本の農協のような、小規模農家も含めた農業指導や融資のシステムは整っていません。
そのため、日本と異なり、農地の農業振興に関わる全般のシステムこそが求められています。具体的には、営農指導や圃場の管理や土壌評価、農家への融資などです。

図5 海外におけるビジネスモデル(提供:サグリ株式会社)

衛星データはどこで利用しているのでしょうか。

営農指導を行うにあたり、土壌分析に活用をしています。従来の土壌分析は、土壌の採取から専門機関での分析となるため、手間とコストがかかるものでした。 当社では、衛星データから圃場毎の全炭素、全窒素、PHを診断することができます。

写真3. インドで展開する営農指導者向けサービス(提供:サグリ株式会社)

これによって例えばインドのような広大な農地であっても、圃場毎の土壌分析が一括で行え、施肥の計画を的確に実施できます。

最近は肥料の価格も高騰しており、無駄な投資を避けることができます。 過剰な肥料を使わないことは、温室効果がCO2の約300倍あるN2Oの削減にもつながります。
さらには、区画面積やこれまでの農家の実績もデータとして持つため、農家へのマイクロファイナンスの際の与信精度を高められ、迅速な融資が可能となります。
令和4年度の経済産業省「アフリカ市場活力取り込み事業実施可能性調査事業」にも採択され、アフリカ農家の収入増加を実現するため、営農情報をタブレット・スマホ等のアプリケーションで配信し、農家一人ひとりの圃場に対して活用可能であることを検証します。

温室効果ガスの抑制を事業のコアに定めていましたが、どのような対応を考えているのでしょうか。

日本では温室効果ガスの削減量や吸収量を“クレジット”として国が認証するJクレジットという制度があり、バイオ炭の活用など、農業に関連した温室効果ガスの排出削減もカバーされています。
4パーミル・イニシチブという、2015年のCOP21においてフランスが主導で提唱し、多くの国や国際機関が参画している取り組みでは、世界の土壌炭素を毎年0.4%増加させられれば、大気CO2の増加を実質ゼロにすることができると考えています。バイオ炭による炭素固定の促進は、温室効果ガスの抑制につながります。

図6 土壌分析の温室効果ガス削減への活用例(提供:サグリ株式会社)

さらに、海外ではより多くの選択肢が出てきています。
例えば、ボランタリークレジットと言われる民間やNGO主導の市場が形成され、欧米を中心に取引が増えています。そこでは、バイオ炭だけでなく、農地を利用した様々な温室効果ガスの排出削減や吸収がクレジットされる可能性があり、当社はこの領域において、実績を作ることで、農業従事者の新たな収益源の確保とともに、温室効果ガス抑制を実現したいと考えています。
以上のように、サグリの技術は、国内にとどまらず、農業の様々な課題に対して、生産性向上に貢献しつつ、温室効果ガスの削減に寄与し、農業を持続的な産業にすることに貢献していきたいと考えています。

図7 サグリ社技術の適用範囲(提供:サグリ株式会社)

坪井様、今日はどうもありがとうございました!

大屋 誠

大屋 誠

クラウドサービス開発や新規事業のR&Dを経て、現在はヤフーにてデータ コンサルティング事業に従事。 事業開発や国内外の技術評価の経験を活かし、アシタネプロジェクトに参画。技術やサービスのキュレーションや、人材教育支援のプログラム開発に従事。東京から福岡に生活拠点を移し、週末は養鶏や農業など楽しむ。