プラネット・テーブル株式会社
日本国内の農業従事者の減少、その一方で生産や流通の過程で起こるフードロス 。これらの問題は多くの人が知るところですが、生産、流通、消費、様々な要素が絡む問題であるだけに、課題解決も容易ではありません。
プラネット・テーブル株式会社が展開するSEND(センド)は、生産者と消費者の間に存在する様々な課題を解決することで、持続可能な農業と流通を作り上げる流通・物流プラットフォームです。
同社のビジョンとSENDの内容について、代表の森氏にその内容をお聞きしました。
どのような背景でプラネット・テーブルを設立されたのですか?
みなさんご存知の通り、世界で生産される1/3の食料が廃棄をされ、流通にのらずに農産地で廃棄される食料が国内で1000万トンほどになるのではないかと言われています。
それに加えて、国内の生産者はこの15年で40%減少しており、農業を継がせたくない、継ぎたくないという状況になっています。
一方で、49歳以下の農業者の経営面積は2005年からの10年間で50%以上増加をしており、意欲的な若手農業者が増えてきています。
私たちは、”未来の「食べる」をつくる”をビジョンに、多様な食べ物が持続的に作られ、無駄なく人に行き届き、食べられるような世界を作りたいと思っています。
そのために提案すべき3要素を以下の通り位置づけ、新しい食材流通インフラを構築することをミッションにしています。
- 生産者が適切な対価を得る。
- 持続的で多様な生産に取り組める仕組みを構築する。
- 未収穫・未出荷・流通ロスの削減をする。
ミッションの基幹を担っているのが、SEND(センド)だと理解しています。 サービスの内容について教えてください。
全国47都道府県の産直食材を、都市部の個店飲食店が購入できるサービスです。現在、東京都内の個店飲食店が対象で約8200店の登録があります。午前3時までに注文をすれば、当日に配送します。飲食店の方にとっては、全国の食材を一括して仕入れができますし、私たちが市場を通さず直接仕入れを行なっているため、市場が休みの日でも食材が届けられる仕組みです。
当日の午前3時までの注文でOKというのはすごいですね!どのような仕組みなのでしょうか?
私たちの大きな特長が、独自で物流を持っていることです。(図3)
品川に食材センターを持っており、生産者や生産者団体から仕入れ買取した食材を入荷します。これを自社スタッフが品質チェックした上で、システム上に掲載し、当日3時で締め切った注文を自社配送網で配送をしています。
よく勘違いされるのですが、私たちは事前に生産者に発注買取をしており、購入者からの発注後に生産者に注文をしているわけではありません。
御社で在庫リスクを持つことで、当日配送を実現しているのですね。リスクをどう低減するのでしょうか?
SENDに蓄積される各種データから購入需要を予測することで、仕入れの精度を高めています。
SENDは日々、購入者からの需要データを取得しています。また、需要データを生産者に提供することで、作付け依頼を行なっています。これらのデータを使うことで、需要予測を実現しています。
改めて生産者の方のメリットについて教えてください。
現在、生産者の登録者は6500名を超えています。登録者の特徴は、90%以上が20代前半から50代前半の若手の方というところです。多くは、地域の次世代リーダーとして活躍される方々で、勉強会を行なったり、経営に大変熱心な方が多い印象です。新しいことに挑戦することにも積極的で、例えば、単位面積当たりの収益向上のために”どんな作物を作ればいいか”など情報への感度も非常に高い方々です。
しかしながら、従来の市場を介した流通では、生産者は何が売れているのか、将来何が売れるかはわかりません。
SENDの場合、前述の通り、購入データが把握できるため、作付け時期になると、どのような作付けをすればいいか、たくさんの相談をいただいています。
図4は私たちが扱う生鮮品の特性です。 SENDの購入者は、ハイエンドやトレンドマーケットに位置するような方が多く、ミシュランなどをとっているようなトップシェフも存在します。そのため、海外で流行し始めた珍しい食材ニーズをいただくことも多いです。こういった需要をもとに、生産者に作付け依頼することで、生産者はある程度の収益を見込んだ上で、作付け計画を行うことができます。
例えば、ビーツが一例です。SENDが立ち上がって間もない2015年は、購入者から国産ビーツの需要が増えていました。しかし、当時の国産ビーツは北海道のみで、生産時期も限られていました。ビーツは健康にも良く、様々な料理に利用ができるため、今後も需要が伸びることを予測し、九州の高原地で根菜の栽培が得意な方に生産を依頼したところ、購入者に大変好評となりました。
その後ビーツは、トップシェフだけでなく、個店飲食店や料理研究家などにも取り上げられ需要はさらに広がり、最近はスーパーでも扱われるような食材になりました。ハイエンドマーケットの購入者の需要情報が、生産者の収益化に貢献した一例です。
また、生産者の業務効率向上でも、SENDにはメリットがあります。それは仕分けと配送の業務削減です。ECによる産直マーケットは、新型コロナウイルスなどの影響で、家庭向けの需要も拡大しています。しかしながら、個々の注文への仕分けと発送は、生産者の大きな負担となっており、継続できなくなる生産者も多いようです。SENDでは、生産者はSENDの食材センターにまとめて発送するだけなので、生産者の負担が大変小さくなります。
また、先述した需要予測からSENDで注文、買取をするため、ある程度の収益を見込みながら生産ができることは、経営の安定化に大きなメリットがあると思います。
メリットがたくさんありますね。生産者の登録は自然と増えていったのでしょうか?
生産者の方に、最初から信頼されるわけではなく、実際に現地に足を運び、SENDのメリットを理解いただき、効果を実感してもらうことで信頼を構築して行きました。良い生産者の方は、良い生産者や購入者と繋がっていることが多く、SENDを評価いただいた方が、紹介し合うことで、利用者が増えて行きました。
購入者の方にとってのメリットも教えてください。
購入者の特徴は、客単価5000~7000円くらいのカジュアルと高級店の中間くらいの方に多く利用いただいてます。良い食材を扱うために、元々、生産者と直接取引をされている方が多いのですが、お店が閉店した後に、毎晩深夜に生産者ごとにFAXで注文するなど対応が大変でした。あわせて、生産者の場所は様々なので、商品が届くまでの時間がバラバラとなる課題がありました。
SENDを活用することで、スマートフォンから一括して発注ができ発注の負担が小さくなるだけでなく、食材が当日にまとめて配送されるため、欠品などで頭を悩ませる心配もなくなりました。
また、全国の旬な食材や珍しい食材を当日に手に入れることができます。
通常、市場を介した流通では店頭に並ぶまでに時間がかかるので、例えばトマトなら青いまま出荷するというようなことになります。
しかし、一番おいしい状態での収穫ではなく、生産者にとっても、購入者にとってもベストな状況ではありませんでした。
SENDを使うと、生産者から直接食材センターに届けられ、翌日には購入者に渡せるため、おいしい状況で収穫されており、購入者に大変喜んでもらえます。
料理のプロからおいしいと言ってもらえるので、結果、生産者にも喜んでいただけます。
私たちもこの事業を本当にやっててよかったと感じる瞬間です。
生産者には、一番おいしい状況で出荷してくださいと言えることに、私たちはこだわっています。
図3を見るとJAとも取引があるのですね。JAや卸の方との関係性はどうなのでしょうか?
よく競合ですかと聞かれますが、JAさんや卸の方には、”役割が違うよね”という、コメントをいただきます。
市場は、日本の食材の安定供給に大変大きな役目を果たしています。新型コロナウイルスの感染拡大下でも、スーパーなどで食材が安定的に手に入るのは、市場や卸の機能があってこそです。
一方で、SENDの役割は、食に多様性を持たせることにあると考えています。ある程度、買取価格も予測できることで、変わった食材にチャレンジできることで、新たな食材が国内で受け入れられ、食の多様性を育むことに貢献できると思います。
また、JAさんも組合員の新しい販路として、飲食店向けの対応を検討されることがあり、ご相談いただいています。
フードロス や流通などの課題にはSENDはどのような効果があるのでしょうか?
市場の流通に乗せる場合、どうしても、小売業さんの流通規格に合わせる必要が出てきます。
例えば、ホウレンソウはこんな袋に入れるべきとか、サイズも仕分けして、それぞれ出荷する必要があります。
SENDでは、きれいなトマトと形の崩れたトマトを一緒に送ってくださいと言っています。
まとめて送ることで、流通コストや負担を減らすことができます。
また、購入者はソースを作る場合など、調理方法によっては形が揃ってなくても良い場合があるため、用途に応じた販売をすることでフードロス も削減できます。
また、自社で流通を持つことで、仕分けや配送を含めた最適化により、流通面の課題にも対応できます。
流通面の対策として地産地消が言われますが、生産者からすると販売機会を狭くする課題があります。 物流に適切なコストを支払いつつも、安く運べる仕組みも含めて構築していくことが、重要だと考えています。
海外でもSENDのニーズがあると思いますが、海外市場における展望などありますか?
今すぐに、私たちで海外展開する計画はないですが、他国の方から相談を受けることがあります。
都心部に良いものを持って行きたいというニーズは、他国でもあると考えており、特にアジアなどは合うかなと思います。
また、日本のような市場の仕組みがそもそもない国では、プラットフォームの参入価値が大きいと思います。
課題は、生産者から都心までの物流部分だと思います。
ここをどれだけ安くやっていけるかだと思います。
今後の展開について、教えてください。
SENDには食材の購入データが日々蓄積していますが、外部の農業 ICTサービスの生産管理のデータや天候や地理情報などを連携させることで、需給を最適化できる仕組みを構築可能だと考えています。
需給予測の精度が高まれば、事前にコミットできる精度が高まるため、生産者の方の事業全般に支援することができると思います。そうすることで、将来の地域農業において、ファイナンスや雇用、情報利用など総合的な価値向上に寄与することができ、地方創生に繋がると考えています。(図5)
今日はありがとうございました。 最後に読者の方にメッセージをお願いします。
私たちは、産地と消費地を繋ぎ、生産と消費の間にある流通非効率や情報の非対称性を解消することで、フードロス問題の解決と地域の農畜水産業が未来に渡って持続する社会の実現に取り組んでます。
現在、コロナ禍による食形態の変化や緊急事態宣言による飲食店の営業自粛などの影響により、生産者・消費者双方の環境が大きく変化しています。
そんな中、農畜水産物のサステナブルな循環モデルの実験的な取り組みとして、トップレストランを中心としたプロの目利きから高い評価を得ている農畜水産者の6次加工品を中心に、一般消費者向けに「PLANET TABLE ONLINE STORE」にて販売をしています。
ぜひ、ご覧ください。
大屋 誠
クラウドサービス開発や新規事業のR&Dを経て、現在はヤフーにてデータ コンサルティング事業に従事。 事業開発や国内外の技術評価の経験を活かし、アシタネプロジェクトに参画。技術やサービスのキュレーションや、人材教育支援のプログラム開発に従事。東京から福岡に生活拠点を移し、週末は養鶏や農業など楽しむ。