technology SORA Technology株式会社 ソラからグローバルヘルス課題に挑む

世界保健機関(WHO)は、「世界マラリア報告書2022」で2021年の世界のマラリアの状況をレポートしており、2億4700万人の患者と56万8000人の死者がでたことが示されています。2000年からは減少が進んでいたのですが、ここ10年では死亡者数も横ばいとなっており、様々な対策が必要とされています。
そんな中、マラリア感染者の95%を占めるアフリカ地域で、ドローンと画像処理技術を使い、新たなマラリア対策を開発するのがSORA Technology株式会社です。同社 Vice CEOの梅田氏に、事業内容とアフリカでの活動状況について話を聞きました。

梅田氏 近影(提供:SORA Technology株式会社)

事業内容について

大屋 ミッションが「宙から人の生き方に変革を」となっていますが、実際にどのような事業をしているのですか?

梅田 固定翼型のドローンをはじめ、空の技術とそこから得られるデータを活用し、新興国、途上国のグローバルヘルス課題の解決に取り組んでいます。具体的には、マラリア対策事業、医薬品配送事業、それを実現するためのドローンの管制システムやデータ分析の事業などを行なっています。

大屋 マラリア対策事業について、詳しく教えてください。

梅田 マラリアを媒介する蚊は、水域に卵を産みつけ繁殖します。この水域に駆除剤散布を行うことで、蚊の幼虫(ボウフラ)の個体数を減らすことをLSM (Larval Source Management)といい、WHOでは蚊帳の利用(LLIN)、室内への駆除剤散布(IRS)とともに推奨しています。
私たちはマラリア対策に極めて有効なLSMを圧倒的に安価に実施可能にすることを目指しています。

大屋 現状、LSMは費用が高いため、普及していないということですか?

LSMの課題(提供:SORA Technology株式会社)

梅田 はい、その通りです。アフリカの多くの国で、費用の問題でLSMの普及が進んでいません。現在のLSMは、人手で水たまりを特定する必要があり手間がかかる上に、手当たり次第に駆除剤を撒いています。そのため、人件費と駆除剤費がコストの約8割を占め、政府にとっては実施が困難な状態です。また、手当たり次第の駆除剤散布は、環境面でも課題が大きいです。

大屋 SORA Technologyは、どのようにLSMを安価にするのですか?


ソリューションの特徴(提供:SORA Technology株式会社)

梅田 ドローンとAIで水たまりを検出し、さらに、水たまり毎にボウフラ発生リスクを自動判定することで、ボウフラ駆除剤を散布すべき水たまりを、特定します。こうすることで、人件費と駆除剤費用を低減します。あわせて環境負荷も下げることができ、LSMが普及するというわけです。

大屋 どのくらいコストを下げることができるのでしょうか?

梅田 駆除剤の費用が全体の7割といわれており、ほとんどの水たまりに撒いている状況なので、撒くべき場所が絞られれば、それだけコストは下げられる想定です。

大屋 駆除剤をまくのは、ドローンを使うのでしょうか?

梅田 薬剤の散布になるので、分析結果をスマートフォンで確認しながら、人がまく想定です。将来はマルチコプターのような、ドローンを使って散布することもあるかも知れません。

大屋 現在はどの地域で活動しているのですか?

梅田 西アフリカを中心にシエラレオネやセネガル、最近ではガーナでも活動しています。

シエラレオネでのプロジェクト

大屋 現地での活動について、詳しく聞かせてください。

梅田 水たまりの検出とリスクの分類の実証は、経済産業省の補助事業として2022年度にシエラレオネで行いました。現地では、科学技術イノベーション局が受け入れ先となり、ンジャラ大学と連携する形で、ソリューションのコアとなる水たまりの検出とボウフラ発生リスクの分類の評価を行いました。

梅田 この作業には、正解データとして、現地の水たまりに実際にボウフラが発生したかどうかの情報が必要です。この大変な作業をするために、現地大学と連携して膨大なデータを集める作業をしました。

現地調査の様子(提供:SORA Technology株式会社)

大屋 なんだか気が遠くなりそうな作業ですね(苦笑) 現地の取り組みで苦労したこと、工夫したことなど教えてください。

梅田 はい、申し上げた通り、膨大なデータの取得が必要なため、現地の協力が不可欠です。この実証に意欲を持ってもらう点が重要でした。

大屋 どんな対応をされたのですか?

梅田 もともとドローンなど新しい技術には興味が強い学生が多かったことが幸いしましたが、あわせてなるべく何度も現地に行ってコミュニケーションを取りました。私たち以外にも海外とのプロジェクトがありましたが、来訪の頻度は少なそうでした。また、シエラレオネは最貧国の一つで、なかなか海外からの投資も集まらない中、頻度高く現地に来て技術指導やコミュニケーションをすることで、学生だけでなく、政府や大学からも好意的に受け入れてもらったと思います。

水たまりの空撮映像(提供:SORA Technology株式会社)

大屋 分類の精度は向上しましたか?

梅田 はい、詳細はお伝えできませんが、最終的に80-90%の精度を目指しており、順調にその目標に近づいていることが確認できました。

大屋 どのくらいの時間で分類はできるのですか?

梅田 現在は空撮データを日本に送って分析するため、判定に2,3日かかります。蚊の卵から成虫になるまで早いものは1週間かからないため、よりリアルタイム性を追求していきたいと考えています。

現地活動中の梅田氏(提供:SORA Technology株式会社)

大屋 シエラレオネの実証で分類までの目処がつきましたが、アフリカのほかエリアでも利用は可能でしょうか?

梅田 活用はできます。しかし、地域ごとの違いへの調整は必要です。例えば、マラリアを媒介する蚊でもハマダラ蚊とネッタイシマ蚊では生体や生息域も違います。

本結果を元に、西アフリカの注力地域での事業化を優先しつつ、新たな条件にも挑戦していきたいと思います。

技術以外の課題

大屋 テクノロジーだけでは、課題の解決は難しい側面があると思っています。御社のソリューションが拡がるために取り組んでいる課題は他にありますか?

梅田 ドローンを管理できる現地の技術人材の育成が必要です。 現在は日本から技術者を派遣していますが、継続的な活動にする上で、人材育成は不可欠です。 シエラレオネには、ユニセフがドローンコリドーと呼ばれるドローン滑走路が整備されており、前述の通り新しい技術へ興味がある学生たちがいました。
技術実証と合わせて、彼らを技術者として育成する対応を並行して進めることで、持続的なソリューションになると考えています。

ドローン操作のトレーニング風景(提供:SORA Technology株式会社)

大屋 その他、課題はありますでしょうか?

梅田 ソリューションのインパクトを明らかにすることです。実際に駆除剤を散布した際の費用対効果の評価をこれから行います。シエラレオネは、LSMを検討していますが、過去に実施をしたことがない国です。LSMの実施は、駆除剤の散布が必要になるため、保健やデジタルの部局以外、例えば農業や環境などの関係部局とも調整が必要なため、時間がかかっています。

大屋 複雑な課題なので、さまざまなセクターと調整が必要になるということですね。

梅田 はい、受け入れ国の事情がある中で、実績を積み重ねていく必要があるため、複数の国とプロジェクトを進めることでリスクヘッジをしています。取り組み先の一つであるガーナは、すでにLSMを実施している国なので、このソリューションの効果や過去のLSMとの比較がやりやすい状況にあります。

今後の展望について

大屋 いよいよソリューション全体の評価、拡大という段階だと思いますが、今後の展望について教えてください。

梅田 今年、来年に現在プロジェクトが進行しているシエラレオネ、セネガル、ガーナの3カ国で事業化したいです。 さらにLSMがすでに事業になっている国に対して、来年、再来年に展開していきたいと思います。

SORA Technologyの皆さん(提供:SORA Technology株式会社)

大屋 多くの国に存在する課題なので、効果がわかれば事業化が加速しそうですね。

梅田 あわせて、社会環境の変化で、マラリアの感染経路や環境も変化するため、それに対応していきたいです。

アメリカの海外援助機関であるUSAIDの報告によると、これまでマラリアを媒介する蚊は、宅内で刺す蚊が多かったのですが、屋外で刺す蚊がナイジェリアやガーナなど一部の都市部で増えていることが報告されています。

このケースが拡大すると、従来のマラリア対策である蚊帳などの施策が効きにくく、LSMがより重要となります。都市部で当社ソリューションが利用できるよう、ドローンだけでなく、衛星データなども活用したソリューションを開発していきたいです。

大屋 衛星データもどんどん使いやすくなっていますし、ぜひコラボして、都市課題の解決にも活躍してほしいですね。

梅田 また、マラリア以外の対応も進めています。新興国、途上国のグローバルヘルスの課題は、まだまだ山積みです。自社の技術を磨きながら、現地と連携し、ソラから社会課題の解決を進めていきたいです。

大屋 誠

大屋 誠

クラウドサービス開発や新規事業のR&Dを経て、現在はヤフーにてデータ コンサルティング事業に従事。 事業開発や国内外の技術評価の経験を活かし、アシタネプロジェクトに参画。技術やサービスのキュレーションや、人材教育支援のプログラム開発に従事。東京から福岡に生活拠点を移し、週末は養鶏や農業など楽しむ。