植物工場の野菜というと何処か近未来の存在と感じていたが、すでに全国で手軽に手に入る状況だということをご存知だろうか。株式会社スプレッドは、独自の技術とノウハウで植物工場野菜『ベジタス』を商品化、2013年には黒字化を達成し、現在、全国4000店舗で展開している 。この植物工場が、持続可能な社会、農業に大きく関わっているという。
代表取締役社長の稲田氏に、同社の取り組みについてインタビューしました。
御社の事業内容についてお聞かせください。
株式会社スプレッドは「未来の子どもたちが安心して暮らせる持続可能な社会の実現を目指す」 をミッションに、2006 年に京都で創業しました。2007年に、当時では世界最大規模のレタスを生産する植物工場・亀岡プラントの稼働を開始。世界的に見ても、大規模の植物工場の成功事例がない中、独自でノウハウを積み上げ、困難と言われた黒字化を 2013 年に達成しました。
今後のグローバル展開を見据え、亀岡プラントのノウハウを活用して、次世代型農業生産システム『Techno Farm™』を開発。2018 年には、このシステムを導入した自動化植物工場 「テクノファームけいはんな」の稼働を開始し、2年足らずで 99%の高稼働率(※)に到達しました。また、生産したレタスを植物工場野菜『ベジタス』としてブランド化。累計7,000万食を販売し、「サステナブルなベジタブル」をコンセプトに、現在、全国4,000店舗にて展開しています。2030年に国内で日産100トンの生産体制の構築を目標に、『Techno FarmTM』の国内外の展開を加速しています。
(※稼働率:最大生産株数に対する生産実績株数 )
御社の植物工場が、サステナブルと言われる理由を教えてください。
スプレッドの植物工場は、社会性、経済性、環境配慮の視点において、持続可能な農業を目指しています。
● 天候に左右されない(安定供給、安定価格に貢献)
● 世界中のどこでも生産が可能(地産地消に貢献)
● 地球環境への配慮(栽培期間中は農薬不使用、節水への取り組み)
● 誰にとっても働きやすい(自動化、IT 活用)
● 収益性が高く、若い世代が興味を持てる
『Techno Farm ™』は、自動化栽培、水のリサイクル技術、環境制御技術、自社開発の専用 LED 照明、IoT/AI など、革新的な技術を導入しており、生産性の向上と環境負荷軽減を両立し、持続可能な農業を推進しているからです。
植物工場の取り組みは、多くの企業が取り組んでいると思いますが、御社の植物工場の特色について教えてください。
栽培や工場について、大きく4つの特色があります。
1つ目は、大規模での安定生産です。
栽培室内の温度、湿度、CO2 などを適正に保つ環境制御技術によって、大規模空間でも安定的な生産を実現しています。さらに亀岡プラントとテクノファームけいはんなでは、99%という高い稼働率に到達しています(他社では 60~70%という説もあります)。
稼働率が高いということは、かけたコストに対する無駄が少ないということですね。2つ目は何でしょうか?
2つ目は、生産性向上と働きやすさです。
テクノファームけいはんなでは、自動化栽培を導入しています。これまで人的負荷が高かった作業を中心に栽培工程の約7割を自動化しています。さらに、栽培管理システム「テクノファームクラウド」を開発。収集した栽培データを可視化し、管理分析業務を大幅に効率化するだけでなく、栽培データと収穫データを組み合わせ、栽培環境を最適化しています。
一方、ほぼすべての作業を人手が担う亀岡プラントにおいても、効率の良い作業動線や作業のマニュアル化を徹底。誰にとっても働きやすい工場を追求してきた結果、10年以上勤めるスタッフや60歳以上が活躍しています。
植物工場と呼ばれるだけあって、自動化や導線など工場で重要視されるようなことにも、向き合われているのですね。また、働きやすさの追求というのは、事業を安定的に進める上で、確かに重要ですね。
3つ目は、徹底した衛生・品質管理です。
スタッフ一人ひとりの衛生管理や、商品や栽培環境の生菌検査など、社内の品質管理部門を 中心に、徹底した衛生・品質管理を行っています。
具体的には、コロナ禍の前から、作業前の検温、体調チェック、手洗いアルコール消毒を実施。衛生・品質管理の要求レベルが高い機内食メーカーとも取引をしており、管理体制について評価をいただいています。また、生産工程管理の国際的な認証制度である「GLOBALG.A.P.」や、農林水産省が制定した世界初の植物工場に特化した規格「JAS 0012」の認証も取得済みです。
品質管理プロセスは相当力を入れてらっしゃるのですね。海外市場も想定されて、認証を取られているのにも驚きました。4つ目は何でしょうか?
最後が、環境負荷の軽減です。外部と遮断した空間で、徹底した衛生管理のもと農薬を使わずに栽培しています。そのため、安全性はもちろん、大気や河川、土壌の保全に貢献しています。テクノファームけいはんなでは、栽培に使用する水の約9割をリサイクルし、年間で約 5,840 トン分(ペットボトル 1,168 万本相当)の節水が可能です。
水や土壌への負担が小さいという特徴もあるのですね!
通常、植物に水や肥料を与えても多くは植物自体が使われず、大気や土中にいくわけですが、植物工場ですと効率が良いということですね。
工場の特色以外に、事業の特徴などはありますでしょうか?
栽培技術に、流通、販売、開発力を掛け合わせた総合力こそが、スプレッドの強みであると考えています。
まずは、研究開発力です。グループ内の研究・ 技術開発チームが、栽培技術や設備の開発に取り組んでいます。多品種栽培やより環境に配慮した技術導入などの検討を進めており、中でもフードロス削減に向けた開発に力を入れています。
フードロス削減とは、具体的にどんなものですか?
例えば、本年4月にリリースした、カットレタスのロングライフ化技術があります。
レタスのカット加工技術を独自開発し、一般的なカットレタスの消費期限である3日から6日に伸ばすことに成功しました。消費期限の延長だけでなく、洗浄に使用する水や廃棄を大幅に削減できる、環境にも優しいカットレタスの加工技術です。
確かに加工に関わることで、無駄の削減や商品の付加価値開発の可能性は高まりますね!
それ以外の取り組みはいかがでしょうか?
ブランド開発にも力を入れています。
2008年より植物工場野菜ブランド『ベジタス』を展開しているのですが、当時は、植物工場野菜の認知が低く、受け入れてもらうことが難しかったです。そこで、店頭試食販売やイベントを通して魅力を発信し、販路を広げてきました。
その結果、これまで累計で 7,000万食以上を販売し、現在では全国4,000店舗にて展開、国内におけるマーケット確立に貢献しました。
「サステナブルなベジタブル」をコンセプトに、植物工場の持続可能性を訴求し、人と地球に 優しい野菜を目指し、売場や SNS でのメッセージを発信しています。
また、物流についても、グループ内の青果専用物流会社のネットワークを活用し、物流コストの効率化を進めています。冷蔵配送車で運ぶため、鮮度保持にも貢献しています。
植物工場について、コストなどの面で事業化が難しいというイメージがありますが、その部分についてはどのような対応をされているのでしょうか。
スプレッドでは大規模に栽培することでコストの効率化を図っています。また、栽培における作業のマニュアル化など生産性の高い工場運営に努めています。実際に、テクノファームけいはんなを稼働し、生産量を増やしたことで、メーカー希望小売価格を下げています(※)。
(※ 2019年に、それまでの198円から158 円に値下げ)
現在、取り組んでいる課題やプロジェクトについて紹介ください
世界最大となる自動化植物工場「テクノファーム袋井」を、中部電力、日本エスコンと合同会社「TSUNAGU Community Farm」 設立に向けた出資者間協定を発表しました。世界最大と1日10トンのレタスが生産できる規模となります。
また、植物工場におけるいちごの量産化技術を確立しました。今後は、農薬を使わないいちごで世界市場を視野に事業化検討と、商品ブランド開発に向けて取り組んでいきます。
御社の植物工場技術は日本以外でも活用ができるように思います。海外向けの取り組みはどのように考えておりますでしょうか?
海外での展開も積極的に検討しています。北米、欧州、中東を中心に、現地のパートナーと協議を進めています。
世界の特に新興国では、人口増加や都市への人口集中から、食料問題や環境問題が深刻となっています。新興国における可能性はいかがでしょうか。
水資源の有効活用や、フードマイレージの削減、食料安全保障の観点から新興国においてもニーズがあると考えています。弊社にもアジアやアフリカなどの新興国からの問い合わせが多く寄せられ、ニーズの高まりを実感しています。
食料 と環境の問題はこれから深まるばかりです。ぜひ御社の優れた製品や技術日本、世界に広めていってください。本日はありがとうございました!
大屋 誠
クラウドサービス開発や新規事業のR&Dを経て、現在はヤフーにてデータ コンサルティング事業に従事。 事業開発や国内外の技術評価の経験を活かし、アシタネプロジェクトに参画。技術やサービスのキュレーションや、人材教育支援のプログラム開発に従事。東京から福岡に生活拠点を移し、週末は養鶏や農業など楽しむ。