最近では再生紙からできたトイレットペーパーを選ぶ人も増えていることだろう。
しかし、意外とその再生紙の元が何だったかということまで思いを馳せる人は少ない。
実は、再生紙トイレットペーパーは、企業や学校などで発生するコピー用紙などの書類や、回収された牛乳などの紙パックを原料にして作られている。そして、そのほとんどは通常真っ白に漂白されている。その時に使われる漂白剤がポイントで、塩素系の漂白剤からダイオキシンの発生が問題となったこともあった。また、漂白剤以外にも化学薬品が使われているケースもある。
廃品回収などでも古新聞、牛乳パック、ダンボール、古雑誌など回収されて、それぞれリサイクルされているが、古雑誌はインクの色が抜けにくいそうだ。古雑誌からトイレットペーパーを作ることは技術的には可能だが、なかなか見た目が真っ白にならないので一般的に売り物になりにくい。
そんな古雑誌などの再生紙の課題がある中、社会福祉法人 共働学舎では、行き場の少ない古雑誌をリサイクルし、漂白剤を使わないトイレットペーパーを実現している。漂白剤を使っていないので、確かに真っ白ではない。しかし、気になるほどではないし、考えてみればトイレットペーパーが真っ白である必要は全くない。白いことよりも、環境や身体に優しい方が優先順位としては高い。
共働学舎は、身体、知的、および精神の障がいをもつ人々のための授産施設だ。
共働学舎では、1980年の創立時から廃品回収を行ってきた。しかし、1990年代に紙の値段が暴落し、回収すればするだけ赤字が出てしまうようになったそうだ。せっかく回収してきた雑古紙をなんとか利用できないか考え、トイレット・ペーパーにすることを思いつき、共働学舎の古紙でトイレット・ペーパーを作ってくれる製紙会社を探し始めた。やっと探し出した会社も、最初は「こんな紙は出せない」という回答だった。
共働学舎の紙を引き受けてくれる会社を見つけるまでに、なんと5年の月日が経過していた。古紙の原料やクオリティが毎回異なるため、なかなか製紙会社に受け入れてもらうことができなかったと言う。できあがってきたロールも、小さな穴があいていたり、かすかに色がついていたりして、クレームとなってしまうことも多々あったそうだ。
やっと見つけることができた静岡・富士市にある製紙メーカーに回収した雑誌が運ばれる。釜で煮て繊維をほぐし、インクを抜き取ってつくり直した巨大なロール紙が、共働学舎に戻ってくる。それを専用の機械で一つずつ一つずつ商品にしている。
通常の市販品と異なり、バージンパルプを使っていないため、森林を守るアクションを意識することもできる。
再生紙リサイクルの業界で、古紙含有率や環境負荷はどちらが高いのかなど、議論はされている問題だ。しかし、紙は貴重な資源であることは間違いない。
日本人は品質の要求レベルが高く、真っ白な紙だとわずかな黒い点も許さない面がある。確かにノートや印刷する紙など、白い必要がある紙には一定以上の品質が必要だろう。しかし、全てに白さを要求する必要が果たしてあるのかどうか。特に、再生紙を白くする工程にコストや環境負荷がかかっている。白くなくて良いものは白くなくて良い、そんな割り切りも許して良いのではないだろうか。
また、これは個人的な意見になってくるが、トイレットペーパーに香料がついている商品が非常に多いことに辟易している。柔軟剤などの化学的な香料が苦手な体質ということもあるが、指についたトイレットペーパーの香りに悩まされることが多くある。化学的な香料だが、香りが長く続くということは、それだけ自然界で分解されにくく、これも環境負荷がかかっている。それも含めて、無漂白・無香料のトイレットペーパーの選択肢が広がることを願っている。
小野 誠(環境コンサルタント)
大手通信販売会社を経て、インターネットビジネスのベンチャー企業の立ち上げなどに携わる。息子が生まれたことにより次世代に残す地球環境への意識が高まり、微生物活性材「バクチャー」にジョインした。日本及び東南アジアの水質浄化、土壌改善などの経験をもとに環境コンサルタントとしてアシタネプロジェクトに参画。