株式会社TOWING
地球環境を考慮した循環型農業の手立てとして、有機農業の切り替えニーズはあるものの、多くの人に必要な量、質の農作物を届けるには、多くの課題が存在します。
株式会社TOWINGは、土壌微生物の培養技術で地域循環型の有機農業への切り替えの複数の課題を解決し、さらには食糧問題や環境問題への解決を進める企業です。
今回は同社代表取締役CEOの西田氏に、サービス内容と取り組みについて話を聞きました。
まずは、事業の概要について、聞かせていただけないでしょうか。
現在の農業では、化学肥料の使いすぎで土壌劣化や環境への影響が深刻化しています。また、化成肥料の価格高騰もあり、食料の安定供給にも不安が出ています。そんな中、有機肥料を利用した循環型の農業への切り替えニーズが高まっています。
しかしながら、有機農業の課題として、耕作面積あたりの収量が減ったり、品質がばらつくといった課題や、十分な収量を得るための土づくりに5年以上かかるというデータも示されています。
西田氏 近影 (提供: 株式会社TOWING)
私たちは、その土地や栽培する品種にあった微生物を培養する技術を有しており、現地で調達可能な有機物に微生物を培養した土壌微生物叢(どじょうびせいぶつそう:土壌にいる微生物の集合)を 高機能バイオ炭 宙炭(そらたん) として名付けて提供しています。
宙炭は、1ヶ月で土づくりができ、慣行農法より高い収量が実現できます。
5年かかる土づくりが、どうして1ヶ月で土が作れるようになるのですか?
この技術は、農業研究機関である農研機構の研究成果で、当社の独自技術も組み合わせて応用開発をしたものです。
土づくりは複雑な組み合わせ問題を解く必要があり、対象の畑の土壌、栽培する作物、これまでの肥料や農薬の利用状況などから、周囲で入手可能な有機物(宙炭のベースとなる資材、有機肥料となる資材)などその他さまざまな情報を収集します。
これらを総合してデザインすることで、 その土地にあった宙炭を生み出すことができ、すぐに土づくりが可能になります。
なぜ地元の有機物を活用するのですか?
循環型の有機農業を行う上で、低コストで安定的なベース材料と肥料の調達が欠かせません。現地で調達可能な材料を使うことは、材料の輸送コストを下げるだけでなく、ローカルにバリューチェーンを構築できることで、社会動向などによる調達リスクにさらされず安定的な肥料の生産、供給を実現できます。
宙炭は、世界の大部分で調達が容易な有機物で作られるため、継続的な循環型農業に貢献できると言えるのです。
土壌に炭をまく農法は、古くからあると思うのですが、これまでと何が違うのでしょうか。
炭は多孔質で微生物が繁殖するには適切な素材で、古くから土づくりに利用されてきました。しかしながら、メリットばかりではなく、土がアルカリ性に傾きやすくなるなど成り行き任せでは最適な土づくりにはなりにくいものでした。
私たちは前述した組み合わせの技術で、最適にデザインされた 高機能バイオ炭 (宙炭)を作ることができることが大きな違いです。
また、宙炭はバイオ炭をベースにしているので、耕作地へまけばCO2の貯留効果があります。10aの畑に10,000L散布すると、約1〜2tのCO2を削減することが可能です。これは乗用車2-4万kmの走行に相当します。
私たちは2023年の春には、国が行っているCO2の削減量や吸収量を認証するJ-クレジットの制度に参加し、炭素貯留で耕作地に貯留されたCO2のJ-クレジットの売却ができるよう進めています。
籾殻のバイオ炭(提供:株式会社TOWING)
「おいしい」と「サスティナビリティ」を両立するフードシステムの構築と言われていますが、“システム”と呼ぶ理由は何でしょうか?
私たちの役割は、微生物技術で、農業と周辺産業である畜産や漁業、林業などを横ぐしでつなぐことだと考えています。
なので、高機能バイオ炭の生産販売だけでなく、バイオ炭、有機肥料の素材となる廃棄物の現地での回収から手がけたいと考えています。
日本ですと籾殻が大量に出る米の脱穀を行う施設や、卵の殻が大量に出る卵の加工施設や鶏糞が大量出る養鶏業者などと連携していくことを計画しています。
あわせて、生産者が宙炭を活用して生産した有機作物の販売や、CO2貯留によって得られたクレジットの販売までを一貫して行うことで、生産者の収益に貢献することも考えています。
これらがつながるシステムをフードシステムと呼んでいます。
日本における有機農業の市場はまだまだ諸外国よりは小さいのですが、堆肥や化学肥料などの市場からの置き換えを初期のステップとして、段階的に成長していくことを考えています。
その他、宙炭の活用について、教えてください。
宙炭は土づくりだけでなく、苗床への利用も期待されています。
苗床の原料であるヤシ柄や泥炭はほぼ輸入に頼っており、昨今の資源不足物価高から価格が高騰しており、調達が安定していて容易な代替品が必要となっています。
また、古くから「苗半作」と言う言葉があるように、“苗の出来によって作柄の半分が決まる”と言わるほど、良い苗作りは重要だと言われています。宙炭を使った苗は、通常の苗と比べて良い環境で育成されるため、その後の育ちも良いことが確認されており、日本の育苗業者からは高い評価を受け、採用が進んでいます。
また、この分野でも炭素固定ができる素材を活用することで評価を受けており、クレジットの取引だけでなく、消費者向けのブランド価値としても期待をされています。
世界にこの技術を広めていく上で、今後どのようなことを考えられていますか
前述の通り、現地調達の材料でカスタマイズ可能なので、地域の材料で高機能ソイルを作ることができます。
例えば、ヤシ柄やエビの殻などの残渣物なども利用できますし、最近は下水汚泥やメタン発酵消化液などの活用研究も進めており、環境汚染につながる有機物を有効利用することが期待できます。
今後人口が増えるアジアやアフリカ諸国においても、アップサイクルなフードシステムを構築することができると考えています。
あわせてVCSなど海外でも取引可能なボランタリークレジットも活用することで、開発国の 生産者の収益アップを促し、継続的な農業や周辺産業を開発国においても広げる貢献をしたいと考えています。
これから取り組むべき課題は何かありますか?
私たちの技術は、地域の土壌や作物、調達できる有機物などの調査やコンサルティングが必要です。これらを如何にシステムで対応し、効率化できるかが一つの課題と言えます。
また、フードシステムを作るためには、有機物回収のための仕組みや現地にソイル工場を作るための投資などが必要になります。これらを広めるためのスキーム作りも重要です。
壮大なプロジェクトで、資金もかかる事業なのですが、例えば日本では“みどりの食料システム戦略”など、自然災害や気候変動のなか安定的な食料供給への関心が高まっており、国やパートナー企業との連携も図りながら、実現に進んでいきたいと思います。
最後に読者の皆さんにメッセージをお願いします。
最近では、科学技術振興機構の「STI for SDGs」アワード2022年度の文部科学大臣賞を受賞するなど、外部での評価も増えています。
社内では“次世代の緑の革命”と呼んでいますが、持続可能な農業システムを作るために、日々まい進をしています。私たちの取り組みに興味を持っていただいたパートナー企業や私たちと一緒に働きたいと思う方は、ぜひ声をかけてください。
微生物技術で「おいしい」と「サスティナビリティ」を両立するシステムをつくっていきましょう!
西田さん、どうもありがとうございました!
大屋 誠
クラウドサービス開発や新規事業のR&Dを経て、現在はヤフーにてデータ コンサルティング事業に従事。 事業開発や国内外の技術評価の経験を活かし、アシタネプロジェクトに参画。技術やサービスのキュレーションや、人材教育支援のプログラム開発に従事。東京から福岡に生活拠点を移し、週末は養鶏や農業など楽しむ。