〜ヤマハ発動機〜
ヤマハ発動機が取り組む水質浄化
バイクやボートなど、エンジンが絡むことで知らない人はいない、ヤマハ発動機株式会社。
そんな同社が、実は「安全な水」も作っていることをご存知だろうか。
今回は、水に対する同社の取り組みについて迫る。
ヤマハクリーンウォーターシステム
同社と「安全な水」の関わりは、1970年代にインドネシアに駐在する日本人社員の家族からの声だった。
「水道水が茶色に濁っていて困る」という意見だったが、同時に地域の社会課題を色濃く意識させる一件だった。
世界展開の中でもこういった地域課題を重視した同社は、水道水を浄化する研究をスタートした。
1990年代には家庭用の浄水器の販売も開始し、その後、途上国の河川水を利用した浄水装置の開発にも着手した。
そして出来上がったのが、飲料水に悩む新興国に向けた浄水装置、「ヤマハクリーンウォーターシステム」。
https://youtu.be/qmzn7Ha2MlU
「緩速ろ過」という自然界の浄化機能をベースにしたシンプルな構造を持ち、フィルターの交換や専門の技術者によるメンテナンス、また大規模な電力などを必要としないことから、設置された集落の住民によって自主運営できる。
同社では、日本政府のODA予算や国連機関との連携によって、この小型浄水装置の導入を進めており、アフリカ、アジア合わせて42基設置(2021年3月時点)している。
地域での自主運営が可能
「水」は人々の生命と営みを支える、最も重要な資源だ。
この資源を安定的に活用していくためには「現地でどう使い、どう管理していけばよいか」という長期的な方策が求められる。
そこで同社は、「ヤマハクリーンウォーターシステム」に、自然界における砂、砂利、水中のバクテリアなどによる水浄化の仕組みを応用した「緩速ろ過式」を採用した。
この方法は河川や湖沼の表流水を原水にして、一日で8,000リットル(約800~1,200人分)の浄水を供給可能としながらも、仕組みがシンプルで大きな電力や特別な凝集剤を必要としないため、導入後のランニングコストがほとんどかからないという特徴を持つ。
また、シンプルであるがゆえにメンテナンスも容易になっており、地域の人々だけで給水所を自主運営することができるのだ。
自主運営に向けた取組:水委員会の設立をサポート、委員長、会計、オペレーターを村人から選出
自主運営に向けた取組:装置設置後、水委員会のオペレーターに対してメンテナンストレーニングを実施
綺麗な水が時間と仕事を生む
水が変われば、暮らしが変わる。
綺麗な水は地域の人々の衛生概念を向上させるほか、下痢・発熱などの疾病を大幅に減少させることができる。
また、もともと水資源に乏しい国でインフラが整っていない場合、水汲みは大変な重労働だった。
しかも、それは女性や子どもの仕事とされてきたため、「水を得る」という作業によって、女性や子どもはこれまで多くの時間を奪われ、教育や仕事の時間も削られてしまっていた。
現在、「ヤマハクリーンウォーターシステム」を導入した村落では、女性や子どもたちが、水汲みからの解放によって得られた時間を生産・学習活動へ充てられるようになった。
そこから水配達や洗浄・製氷など、新たなビジネスのアイデアが生まれ、村落が活性化していくことが現実になっている。
設置された集落では住民が水委員会を組織し、自主的な運営やメンテナンスが行われている
こうした実績が「新興国の事情を理解したシステムデザインとして秀逸」と評価され、2013年には日本デザイン振興会による「グッドデザイン賞金賞(経済産業大臣賞)」を受賞している。
また、2020年には、ヤマハクリーンウォーターシステム設置集落への「紙芝居による安全な水の利用啓発プロジェクト」にて、環境省が主催する「第8回 グッドライフアワード」の「実行委員会特別賞 子どもと親子のエコ未来賞」も受賞している。
「紙芝居による安全な水の利用啓発プロジェクト」は、長い間 河川等から汲み上げた水をそのまま生活水としてきた集落の子どもたちに対して、安全な水の重要性をさらに深く理解してもらうことを目的としてる。
また、「電気を使わない」「言語に頼らない」など現地環境に即した啓発活動のパッケージとして、「紙芝居」を「寸劇」で補足するという手法を選択。
セネガル共和国ダガナ近郊のデゲンベレ村、バハオ村、ウロケレ村を訪問し、広場や学校で子どもたちに向けた啓発活動を紙芝居や寸劇を通して実施している。
綺麗な水が人々と地域を変える、そして地球が変わる
綺麗な水のある暮らし。
その体験は地域の人々の衛生概念を変える。
「ヤマハクリーンウォーターシステム」を導入したセネガルの村では、運営のための委員会が設立され、日々のメンテナンス、水販売活動が行われるようになったほか、技術移転、自治能力の向上にもつながっている。
同社では、今後「ヤマハクリーンウォーターシステム」と併せて、ロボティクス技術を生かした農業の省力化・自動化による農業生産性の向上や環境対策としての電動化製品の開発などを通し社会課題の貢献を目指しているとのことだ。
日本に住んでいると意識しにくいが、公衆衛生が果たす役割は非常に多い。
例えば、途上国で乳幼児が命を落とす確率は先進国に比べて高いが、主な原因はマラリアや下痢、感染症などだ。
綺麗な水や清潔な環境があれば防げる問題ばかり。
日本でも戦後に公衆衛生が改善されて、乳幼児の死亡率が大幅に良くなった。
実は、人口増加の問題は、乳幼児の死亡率と、教育や時間の使い方が遠因である。
人は乳幼児の時に子ども達が死亡してしまうと、本能的に多くの子ども達を産もうとする。
水汲みなどに時間を追われて教育が行き届かないと、避妊の知識がなくなり、またビジネスに取り組むこともできない。
公衆衛生という基本がないと、人々は負のスパイラルに陥りがちだ。
その点で、特別な技術が必要なく、現地の人でメンテナンスができる浄化装置は画期的だ。
地域の人の生活だけでなく、このシステムが広がることで、地球の未来を変えることができるに違いない。
小野 誠(環境コンサルタント)
大手通信販売会社を経て、インターネットビジネスのベンチャー企業の立ち上げなどに携わる。息子が生まれたことにより次世代に残す地球環境への意識が高まり、微生物活性材「バクチャー」にジョインした。日本及び東南アジアの水質浄化、土壌改善などの経験をもとに環境コンサルタントとしてアシタネプロジェクトに参画。