technology 株式会社ゼロボード GHG排出量算定・可視化クラウドサービス

脱炭素社会の実現には、企業、自治体、個人があらゆる分野で変革することが求められています。しかしながら、私たちは、自らが勤めている企業や取引先、住んでいる自治体がどの程度温室効果ガスを排出しているか知っているでしょうか。

現在、大手企業や自治体などで温室効果ガスの排出量の開示の動きが広がっています。これは、世界的なカーボンニュートラルへの目標やルール策定によるものだけでなく、企業のガバナンスや投資先として評価を受ける上で、温室効果ガス排出量が重要な指標となってきたことが理由としてあげられます。

しかしながら、複雑な事業活動や企業間の連携において発生する温室効果ガスを算定することは大変な作業が伴います。

株式会社ゼロボードは、大手企業から中小企業まで、GHG排出量の算定・可視化をするためのクラウドサービスを提供している企業です。

今回は同社代表取締役の渡慶次氏に、サービス内容とそれを実現するための取り組みについて話を聞きました。

渡慶次氏 近影 (提供: 株式会社ゼロボード)

渡慶次さん、本日はよろしくお願いします。
まずは、事業の概要について、聞かせていただけないでしょうか。

私たちはGHG(温室効果ガス)の排出量算定・可視化のクラウドサービス「zeroboard」の開発、提供を行っています。

一般的には企業向けのSaaSビジネスを行っている会社というカテゴリになり、2022年8 月時点で1800社以上に導入されています。

zeroboard概要 (提供: 株式会社ゼロボード)

GHG排出の可視化が必要とされている背景を教えてください。

現在のGHG排出に関わる事業会社を取り巻く動向として、以下のようなことが挙げられており、企業としては、脱炭素経営に取り組まないことリスクになってきています。

・気候変動対応が事業の財務影響の重要要素として、金融市場から捉えられるようになったことで、GHGの排出量など気候関連情報の開示が標準になってきている。

・日本を含め各国がカーボンニュートラルを宣言し、排出量取引など各種制度の導入が進んでいる。

・ミレニアル世代・Z世代など環境配慮に敏感と言われる世代が消費の中心となってきている。

私たちは、この中でも気候変動財務情報の定量評価の根幹となっているGHG排出量の算定・可視化を進め、社会がゼロエミッションを達成するためのダッシュボードとなるべく、企業、自治体、そして生活者を巻き込んだソリューションを展開しています。

GHGの排出量は、一体どのようにして求めるのでしょうか。

GHGプロトコルについて (提供: 株式会社ゼロボード)

GHGの排出量の算定、報告の報告の国際基準である「GHGプロトコル」に基づき、算定をしています。

算定の対象は大きく3つのスコープに分かれており、事業者自らによるGHGの排出(燃料の燃焼など)をスコープ1 、他社から共有されたエネルギーの使用による間接排出(電気の使用など)をスコープ2、そして自社の商品・サービスに関連した他社の排出(原材料などを収める取引先のGHG排出や自社製品の使用によって排出されるGHG排出など)を計上するスコープ3があります。

ゼロボード画面イメージ (提供: 株式会社ゼロボード)

GHGプロトコルに沿った入力画面を用意しており、これに入力することで算定が可能です。

自社の情報だけでは算出できないスコープ3の算出は大変そうですね。

はい、スコープ1、2であれば、必要項目を入力いただくことで算定が可能で、各工場や拠点で入力すべきデータの洗い出しさえできれば、比較的短期に算出ができます。

一方、ご指摘の通り、スコープ3は原材料や部品などのサプライヤの情報までが必要になります。しかし、これは大変なので、これまでは環境省などの公表する標準値を利用して、値を出すことが通例でした。

ユーザー企業とサプライヤの関係 (提供: 株式会社ゼロボード)

しかしながら、これでは取引先のGHG削減努力が反映されないため、結果的にスコープ3を削減することが難しくなります。

そこで、私たちはサプライヤも含めてゼロボードを使っていただき、各社のデータの連携までサポートすることで、各製品のサプライチェーン全体を可視化できることが強みとなっています。

このためスコープ3の算定は一旦標準値で行い、必要に応じて、さらに3-6カ月程度かけ、サプライヤごとの算定を行っています。これにより、サプライヤの削減努力を適切に把握できます。

1800社の顧客は、どのような企業が多いのでしょうか?

やはり上場会社が多いのでしょうか。

契約先という意味では、上場会社がほとんどです。

契約企業の中には、サプライヤや関連企業のライセンスも一括購入されるケースもあります。サプライヤのコストも含めて負担をして、全体の可視化をしていきたいというお考えです。

ここまでサプライヤ側の可視化に注目してきましたが、商品の利用側で発生するGHGは、どのように算出するのですか?

商品ごとの使用時の排出量を算定し、販売数量から算定を行います。

シンプルな内容ですが、取扱点数が多いお客様にとっては、ボリュームの多い作業になります。

地方自治体も利用しているそうですが、どのような目的で利用しているのでしょうか。

ゼロカーボンシティを目指している自治体が増え、域内のGHG排出の可視化を進められている状況です。

最近の企業誘致では、如何に再生可能エネルギーが確保できるか問われてきています。今後、大きな工場を地域に誘致するとき、地域をあげて、定量的に地域のGHG排出とエネルギー調達の状況や方針を明示することは重要になっていくでしょう。

これは移住など住民誘致においても、同様だと思います。

顧客の特性に応じて、算定の上で検討すべき項目も変わりそうですね。算定も顧客ごとにケースバイケースで対応していくという感じでしょうか?

大手企業であれば、コンサルティングファームを雇って対応できますが、中小企業となるとそんなコストはかけることはできません。私たちは如何に算定対応を簡略化し、開示に耐えうる算定ができるかに拘っています。

たしかに大手企業や自治体だけが可視化しても、大手企業と取引をしている中小企業や地元の企業が可視化しないと、全体がわからないので、いかに中小企業にとっても、使いやすいサービスであるかが重要ですね。

そうですね。
使いやすさに加えて、中小企業がGHG排出量を可視化することへのインセンティブを提示することが重要です。

例えば、納品先企業より、優良サプライヤとして、発注を増やすというようなインセンティブが考えられます。

パートナーエコシステム (提供: 株式会社ゼロボード)

しかし、インセンティブはこれだけではありません。私たちは商社、金融、電力・ガスなどのエネルギー会社などと連携し、ネットワーク効果を高めています。

具体的には、どんなインセンティブが提示できるのでしょうか?

例えば、銀行から融資条件が優遇されるというインセンティブが考えられます。
銀行にとっても、融資先のGHG排出削減状況が可視化、促進できることは、融資リスクを下げることができるため、双方に利があります。

また、前述の通り自治体も地域の可視化は、企業誘致などにメリットがあります。 可視化を進めた企業への補助金交付などのインセンティブも考えられます。

また、電気・ガス・商社などの企業は、企業の状況に合わせてGHG排出削減のソリューションを提案できます。

zeroboard上で新たなビジネスが生まれており、まさにプラットフォームビジネスですね!

さて、世界でもGHG排出量の可視化やzeroboardの仕組みを必要としていると思います。今後、海外への展開はお考えでしょうか。

はい、2022年8月に発表したのですが、GHG排出削減を進める上で、海外製造拠点の脱炭素化を進めています。 既に英語、タイ語の対応が完了しており、国内商社と連携し、オールJapanでアジア製造業のサプライチェーンの可視化を進めるべく、日本企業が多く製造拠点を構えるタイへ進出します。

ありがとうございます!
最後に今後の展望についてお願いします。

世の中には、自動車や物流、建設などサプライチェーンが深い産業が多く存在します。それらはエネルギーを大量に利用していますが、サプライチェーンの深さ故にまだまだ状態を把握できておらず、多くの最適化の余地があります。また、これらの業界には多くの日本の企業が存在しています。
私たちは早くからこの課題にフォーカスし、複雑なサプライチェーンを可視化することに取り組んできました。

現在、GHG対策は欧州を中心に動いていますが、サプライチェーン全体の可視化改善は、本来、日本企業が強い領域に思います。私たちは、こういった日本企業のGHG削減を支援し、日本からアジアに活躍の範囲を広げていきたいと考えています。

最後に読者の皆さんにメッセージをお願いします。

私たちはミッションとして、“見通しの良い世界を作る”ことを掲げています。

これは、企業としてGHG排出や削減に関する見通しをつけるだけでなく、気候変動によって、社会が不安になっている現在、将来への見通しをつけることも含んでいます。
今後の展開にもぜひご期待ください。

渡慶次さん、どうもありがとうございました!

大屋 誠

大屋 誠

クラウドサービス開発や新規事業のR&Dを経て、現在はヤフーにてデータ コンサルティング事業に従事。 事業開発や国内外の技術評価の経験を活かし、アシタネプロジェクトに参画。技術やサービスのキュレーションや、人材教育支援のプログラム開発に従事。東京から福岡に生活拠点を移し、週末は養鶏や農業など楽しむ。