INTERVIEW

是澤 優インタビュー 途上国の経済発展を日本がサポートする意味 中編

Atsushi Koresawa

是澤 優

国際連合人間居住計画(ハビタット)
アジア太平洋地域代表・福岡本部長

是澤優は、2017年6月より現職。国連ハビタットの以前は、1988年より国土交通省中部地方整備局総務部長、総務省消防庁国民保護防災部参事官、不動産適正取引推進機構研究理事 等、日本政府の様々な省庁の役職を歴任。また、国連ハビタット(ナイロビ)、OECD(パリ)、アジア防災センター(神戸)の国際機関等にも従事。これまでの経歴を通じて、日本と国際関係の両方において国家・地域・都市レベルの開発、土地・不動産管理、災害対策の分野で活動。

──世界の情勢に日本人が関心が低い理由についてお聞かせください。

最近の日本人、特に若者が内向きだとか言われていますが、海外の情報に接する機会が少ないということが一つの要因ではないでしょうか。普段日本で生活して日本のテレビや新聞を見ているだけでは、海外の生の情報はあまり入ってこなかったり、少し偏ったりしていると思います。
例えばWHOという国連機関がコロナの関係で注目されている中、日本ではWHOがあまり役に立っていないという考え方が他国と比べて多い状況です。なぜかと考えると、日本ではWHOが各国で何をやっているのかという情報がほとんど伝わっていないような気がします。WHOは記者会見をしてパンデミックと宣言することだけが仕事ではありませんが、そこに注目される一方、各国において健康に関する支援・指導をやっている実際の活動は報道されません。日本のテレビを見ていても海外の情報って本当に少ないと思っています。どうしてもアメリカ中心の情報、メジャーリーグがどうだったかという情報は頻繁に入ってくるけど、それ以外の世界で起きている情報は非常に限られています。例えばベイルートで大爆発があった時だけ報道がありましたが、その後現地がどうなっているか続報が少ない。昨年モザンビークでサイクロンによって大被害が起きた時には日本ではほとんど報道がありませんでした。新聞の小さい記事にはなるけど、よほど注目していないと海外の情報が入ってこない、日本人の目を通した情報しか入ってこないので、そこがちょっと偏っているなと思います。
今後はもう少し海外の情報に接する機会を増やしていくためには、マスメディアだけでなくさまいろいろなチャンネルを通じて、このアシタネプロジェクトでも情報が逆輸入されるようになればいいですね。

阪神淡路大震災と、東日本大震災生の情報が入ってくる、強いパワーが生まれる

見ることは信じることと言われますが、見ることや体験することは人の心に強く影響すると思いますね。
私が体験した中で大きく影響しているものとしては、二つの大震災、阪神・淡路大震災と東日本大震災があります。現場に行った時の衝撃とか、この地域を何とかしなければならないと思ったことは今でも心の中に残っています。海外の災害現場ではインドネシア、フィリピン、ハイチなどが心の中にしっかりと残っています。色々な国に行って災害などの悲惨な状況を見てきましたけれども、そういう実体験は人々の考え方や将来何をしていくかを決めるうえで重要だと思います。
別の例を話します。東南アジアの大都市へ行くと、日本と比べると清潔さや交通の利便性などは少し劣っているにしても、随分と綺麗になっていますね。30年以上前の学生時代に研究を兼ねて訪れたバンコクの当時の街並みと比べると全然違います。しかし、近代的に発展した街並みの裏側を見ると昔から残っている沢山の課題が見れます。そういうものも見る機会があれば良いですけど、実際は難しいですよね。そういうところを我々が補足できればいいなと思っています。

──国連ハビタットと手を組むということは現地の生の情報を知ることが出来というアシタネプロジェクトにとって最大の強みですよね

我々の強みは、各国にオフィスを置いており、職員はその国の人達と自分たちのネットワークを持ってることです。国だけでなく地方政府、民間企業とか大学などの生の情報に接しており、そこから取り込める生の情報はかなりの価値があります。現場の声や現場の状況などは人々の感心に合致するかもしれないですね。

海外の問題だけではなく、日本の問題も取り組む
SDGSということを気にせずに自分の問題ということをどんどん行動に移していくことが重要

私は国連という立場で時々学校に行って、中学生から大学生までを対象に海外の開発、人権、平和の問題などに感心を持ってもらいたいと話しています。一方で、日本にも様々な問題があるということに気付いてもらいたいとも思っています。海外の問題に取り組むことが重要だとは思っておらず、自分の身の回りの問題をしっかり理解し、取り組むようにしてもらいたいと思っています。
例えば最近は当然のように広がってきましたが、プラスチックごみ問題。日本には他にも多くの課題があります。貧富について、日本は絶対的貧困はほとんど無いけれど相対的貧困は非常に多い。母子家庭や生活保護を受けるなどの困窮世帯は多く、コロナの影響で仕事や所得を失った人も多くいます。
企業の社会的価値、利益追求だけではなく社会に貢献しなければならない、自分の子供を含めた将来世代にどういう社会を残したいかいう思いは皆さん持っているでしょう。貢献したいという気持ちは持っているでしょうから、会社という器をうまく利用することにより様々な貢献ができるではないでしょうか。
企業はいろんな形で社会に貢献できているわけですから、それを利用することによって個人的満足も満たすことのできる貢献を考えられるので、それをもっと活かしたほうが良いのではないでしょうか。SDGsへの貢献はこうあるべきとか難しく考えるのではなく、結局、身の回りの課題がグローバルな課題に繋がっているわけですから、普段自分が問題意識を持っている、直面している課題にいかに貢献するかという観点からグローバルな課題であるSDGsへの貢献が十分可能だと思いますね。自分の身近な問題を考え、行動していくというのが大切だと思います。
SDGsは人々の関心を引き付けることには成功していると思います。日本ではSDGsバッジや関連する本が多くありますし、新聞を読むと毎日のようにSDGsやESG投資の関する記事やオンラインセミナーのことが出ており、これほどSDGsに関する関心が一般的に高い国は珍しいですね。
しかし、今でも企業や行政の方々から、何をやれば良いですかという質問があります。スウェーデンの気候変動対策を求める活動家で注目されているグレータさんはあまりSDGsとは言っていないと思います。具体的な課題に関心を持ちアクションを起こすことが重要だと思いますね。頭でっかちにSDGsはこうでなければならないと固定的に考えずに、普段自分が思っていること、やっていることに関連付けながらやっていけば良いのではないかなと思います。

──アシタネプロジェクトを通じて人々にとって楽しいイベントを開催していくと結果環境にいいことをしたという、社会体験としても色んな意識が高まると思っています。

楽しむということも重要だと思いますね。難しい本を読んで理解しようとしても本棚に積み重さなるだけでしょう。気軽に参加し、経験してみる。以前事務所に小学生が来てSDGsに話したときに、子どもたちの目が輝いていたのは、私がSDGsの話をできる限り分かりやすく話そうとしていた時ではなくて、職員がSDGsに関するゲームを行ったときでしたね。当事務所で実施している一つの取組が、日本の大学生のミャンマーでの現地体験があります。現場で自分の目で実際に見て体験してもらうと経験として残りますし、人生にとって重要だと思います。
ただし、海外に行くことができない方もますので、今のコロナ時代はオンライン会議でつながる機会が増えており、海外の情報を得る機会も増えているのではないかと思います。

インタビュー/構成 Yu Kondo

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